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俳句庵 2022年6月優秀賞発表

季題   6月 「梅雨」

  • 梅雨寒や一行のみの返し文

    東京都 岩川 容子 様

  • 傘かしげ梅雨入りの路地の会釈かな

    大阪府 津田 明美 様

  • 校庭を見やる校長走り梅雨

    千葉県 伊藤 博康 様

  • 梅雨寒や農事日誌に祖父の文字

    滋賀県 別役 昌子 様

  • 濡れ縁に草の触れゐる梅雨入かな

    安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

今月の季題は「梅雨」です。嵗時記は梅雨を次のように規定しています。「立春から一三五日目、六月十一、二日の入梅の日から三十日間を梅雨という」。同類の語に「五月雨(さみだれ)」がありますが、五月雨は雨そのもの、梅雨は降る時候を主にして言います。雨の名称は多様です。今月は多数の出句がありました。登場する対象も、龍神からありまき(あぶらむし)まで多様でした。
 優秀賞の岩川容子さんの句。「一行のみの返し文」が、鮮烈な印象を呼びます。辞令を表す一行書とは別です。手紙の返事ですが、小説の一場面を見るような、様々な背景を思わせる言葉です。季語としての「梅雨寒」が善く効いています。
 津田明美さんの句。この句には日々の生活があります。「傘かしげ」がその一つです。「梅雨入りの路地の会釈」に、上五の「傘かしげ」が善く合います。俳句の内容の広さを表している句です。こういう句は万太郎先生の頃の「春燈」では善く見かけました。この句など、その伝統を受け継いでいます。
 伊藤博康さんの句。「校長」が善いです。中学校でしょうか。運動会を前にして、日程と天候の双方に思いをめぐらせている校長の姿が浮かんで来ます。「校庭を見やる」に、その時の校長の顔が浮かんで来ます。元よりどういう顔かは分かりませんが、こういう景には共通性があります。
 別役昌子さんの句。「農事日誌」は、実際農業に携わっている人たちの、その地域における気節、天候、人事などを記したノートでしょう。作者がそのノートを見ているのは、そのノートに祖父の記した文章が載っていたからです。懐かしさと共に、新しい発見を見たのかも知れません。農事の一面を知る思いの句です。
 今月の佳句。〈妻と二人眺むる梅雨の海冥し 野中泰風〉。〈振り返り合はせる歩幅梅雨の月 いまいやすのり〉。〈戻り梅雨友の訃伝ふ声かすれ 神長誉夫〉。〈血圧の乱れ憂ふや梅雨の日々 林とみ代〉。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。

今月の応募作品

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