俳句庵

季題 1月「初詣」

  • 東方へ二礼二拍手初詣
  • ブラジル     林 とみ代 様
  • 初詣母健やかに老い給ふ
  • 兵庫県     山地 美智子 様
  • 初詣いくさなき代を祈るのみ
  • 福岡県     西山 勝男 様
  • 車椅子孫に押されて初詣
  • 三重県     西井 治男 様
選者詠
  • ひた祈る少年の背や初詣
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 『日本大歳時記』の解説(山本健吉)によると、「初詣」の季語が歳時記に収録されたのは明治の末頃からのこととあります。この大歳時記の例句も高浜虚子の句が筆頭です。現在「初詣」という行事は、地域を問わず、全ての人々の生活の中に息衝いています。初詣を日常の浄化という思いで参る人も多いでしょう。又、初詣という季語には、遥かな時空の故郷や父母の姿が重なります。
 優秀賞の林とみ代さんの句。作者は現在ブラジルの地にお住まいです。「二礼二拍手」は神参りの作法。「東方へ」が、作者の地理的な條件と、その地からの故国日本への思いをよく表わしています。その思いを「初詣」が確と受け止めている句です。
 山地美智子さんの句。まさに心情俳句です。老いた母堂との初詣、それは作者に限らず全ての人にとってこの上もない喜ばしいことなのです。更に「母健やかに老い給ふ」が、母堂への敬愛の情をよく表現しています。
 西山勝男さんの句。今年は日本にとって戦後七三年目の年です。この間も世に戦さは断えません。全ての民族が平和であれという思いは、地球という私たちにとって只一つの天体に住む人全ての願いです。「祈るのみ」にその思いがよく感じられます。
 西井治男さんの句。いかにも現代の俳句です。「車椅子」は現在街なかや、駅や各種の会場、病院などでも広く見受けられます。この句はその車椅子に乗る作者を、お孫さんが押して初詣に来たという句です。一読こころ暖まる思いのする作品です。
 今月の佳句。〈仲見世に招き猫買ふ初詣 東野了〉。〈異国語の飛び交ふ中を初詣 天野昭正〉。〈初詣こたびも雪の善光寺 木原登〉。〈独り身の子の幸祈る初詣 入部和夫〉。ともに対象を良く見据えた作品です。「初詣」の季語がよく生かされています。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。