俳句庵

12月『寒灯』全応募作品

(敬称略)

愛知県      遊泉(ゆうせん)
寒灯に「砂の器」の下巻かな
人影や無人駅舎の冬ともし
冬の燈のいよいよ寂しダムサイト
消さで聴く寒灯の下(もと)ノクターン
寒灯の赤色回すガードマン   
静岡県      金子加行
寒灯下今日の仕事に積みし辞書
寒灯の消えれば点きて寝ずの首都
この村に生終へし友寒灯
薄暗き寒灯なれば旨き酒
的中の目薬涼し寒灯下
大阪府      藤田康子
寒灯や遠路を帰る夫のため
寒灯や山あいに寄せ合ふやうに
東京都      石川昇
寒灯のぽつりぽつりと過疎の村
思い出の多くは昭和冬灯
千葉県      柊二
黒き波へ石油精製の寒灯
京都府      田端敏弘
お馴染みを湯気の迎える寒灯り
白い物連れてご帰還寒灯
寒灯の内の一つで待つスープ
新潟県      近藤博
小夜更けば街灯ひえびえ冬ともし
酔いしれて家路の街々冬ともし
終電や降る人まばら寒灯下
寒灯も心温まる灯の明り
寒灯やかたへに妻ゐて温温し
埼玉県      飯塚璋
寒灯下離島へ馳する巡視船
山口県      ひろ子
川沿いの寒灯を落とす水面かな
工事場の寒夜点滅信号機
千葉県      野木編
竿灯下コインランドリー客一人
竿灯に馬頭観音浮かびゐて
竿灯の届かぬところ影二つ
竿灯やコンビニに寄る塾帰り
老犬の息潜め待つ竿灯下
愛媛県      向井桐華
寒灯や亡き友の句を諳ずる
寒灯や閉鎖決まりし診療所
神奈川県      守安雄介
寒灯の瞬きもせぬ岬かな
荒波に寒灯沈む船出かな
寒灯や受験峠を無事に越ゆ
寒灯の所々を断つ飛沫
寒灯の波に向かいて突き進む
兵庫県      紫 桔梗
牛小屋の裸電球寒灯
追伸に滲む親しさ寒灯
寒灯下久々に聴くクラシック
誰も居ぬ無人駅舎の寒灯
寒灯を消して画廊の店仕舞ひ
USA      -(鈴木良子)
寒灯に 整理が整理 呼ぶ机上
寒灯下 本読む夫婦 影も老い
冬の灯や コンピュウタ夫 背を丸く
どの国も 政権交代 寒燈か
平成も わずかとなりし 冬灯
東京都      勢田清
寒灯や母屋は既に寝静まり
寒灯に夜の往診頼みけり
寒灯下試験準備は未だ済まず
寒灯や見知らぬ街の裏通り
寒灯の旅館小さき駅の裏
宮城県      石川初子
寒灯や残業の子を待ちており
神奈川県      佐藤博一
相槌も言葉の一つ寒灯
食卓は妻の文机かんともし
一つずつ消して一つを寒灯
囲敵を待ち構えいる寒灯
寒灯やそこに幸せある如く
兵庫県      噂野アンドゥー
雪降って 消える灯火 マッチ売り
寒灯や 路面もギャグも 凍る町
天然の スケートリンク 冬灯
寒灯や ダイヤも凍る 大都会
冬灯 マッチ一本 火事の元
愛媛県      渡邊國夫
うまさうな匂ひ露店に冬ともし
説法に集ふ若人寒燈下
ぽつんぽつんと冬ともし山峡に
ユーモアのあふるる法話寒燈下
客のあるらし座敷に冬の灯火かな
兵庫県      岸野孝彦
寒灯や家族を想う命の火
寒灯や両手かざせばほの温し
寒灯や想い人住む里辺り
寒灯や窓に流れる北帰行
寒灯やデジャブのごとき蒼き日々
宮城県      林田正光
寒灯の旅館一軒過疎の村
寒灯や蛍雪時代回想す
訳ありて寒灯頼る墓参かな
寒灯に群がる虫の息遣い
寒灯下連絡先のメモを取る
山梨県      天野昭正
寝る為の小さき家なり冬ともし
妻が買ふ老眼鏡や寒燈下
寒燈を消せば窓より星あかり
猪の解体始まる寒燈下
煌々と駅前ビルは冬ともし
愛知県      西谷寿
寒灯の消え入る光家急ぐ
寒灯を見ながら背筋丸くする
寒灯を見て家路へと急ぐ足
寒灯に誘われ酒を飲みに行く
寒灯がゆらゆら誘う深夜かな
長野県      木原登
寒灯や三面六臂阿修羅像
寒灯を運河に映す小樽かな
寒灯の終夜またたく無人駅
叱られて影踏み帰る寒灯下
寒き灯に学べる吾子を思ふのみ
東京都      内藤羊皐
駄菓子屋の玻璃戸の翳や寒灯
子殺しの絵馬も売ります寒灯
寒灯や夜を継ぎたる葬祭場
洪水の碑翳る寒灯下
寒灯川の滾りに揺れにけり
東京都      佐藤博重
故郷に待つ人あらず寒灯
寒灯や遺影は凛と引き締まり
寒灯下遺影の父の鋭き視線
千葉県      伊藤博康
寒灯帰り辛きは我が家なり
寒灯父の帰りを待ちにけり
藁を打つ音たんたんと冬灯
寒灯や夢中で読みしミステリイ
読みかけの本ばかりなり冬灯
神奈川県      森山茂
寒灯や根元に何か落ちたまま
東京都      白木幹二
寒灯下迎える妻の影絵浮く
寒灯下道着に湯気たて童子過ぐ
ブラックな職場戸を締め冬灯
神奈川県      梶満理子
寒灯のともりしころに仕事行く
寒灯や内職の母背を照らす
寒灯下家族揃って鍋囲む
夜も更けて消えぬ寒灯受験生
集金の父母待ち一人寒灯下
兵庫県      はなちる
故郷は初雪の花寒灯下
寒灯下目を凝らし読む説明書
寒灯下眠気を誘うテスト前
寒灯の点滅したる夜の道
寒灯や孤食に慣れし夕餉かな
神奈川県      原川泉水
寒灯に魅せられ屋台熱い蕎麦
寒灯や雪路にしみる鐘清し
寒灯や川面に映えて鱗なす
寒灯を抱える大樹鬼子母神
寒灯や池面の星雲かき乱し
東京都      伊藤はな
冬灯空しらじらと明け初むる
針穴へ糸まさぐりて冬灯
寒灯の消ゆる闇夜や母の声
寒灯に鼓動確かむ寝息かな
寒灯の影揺れ母を偲びけり
神奈川県      矢神輝昭
寒灯のモールス信号無人駅
祖母の家寒灯頼りのくねる道
寒灯や耽る思いの拠り所 
深夜便寒灯いくつ郷里まで
寒灯にぽつり懺悔のひとり酒   
神奈川県      井手浩堂
寒灯の朝まで点る道普請
寒灯下牛の出産はじまりぬ
一つづつ点る寒灯観覧車
東京都      五島洸
寒灯の大俎板に水流す
寒灯のもと自分史を書き継ぎぬ
寒灯下志功疾風のごとく彫る
「占い」と書きし寒灯かたわらに
帰り来て寒灯のわが小宇宙
滋賀県      東野了
寒灯の消えて星空残りけり
寒灯を昼もともして無人駅
寒灯の明滅したる常夜灯
寒灯に寄り添ふごとく六地蔵
寒灯の真下活断層走る
東京都      岩崎美範
麺すする単身赴任の寒灯下
どの窓も幸せ色や冬灯
父かへり温もり始む寒灯下
妣よりの文読み返す寒灯下
喜びも悲しみもあり寒灯下
埼玉県      よしこ
寒灯の星に紛れる川堤
寒灯や掠るる行のインク文字
誤字見つけ慌てふためく寒灯
夕暮れに三つ四つと寒灯
寒灯に駅員ひとり座りゐる
長野県      横山一成
沈黙は金となりたり寒灯に
半世紀溶け合うふごとく寒灯下
寒灯や去り急ぐものばかりなり
寒灯の闇の欠片を砕きけり
猫が猫温めている寒灯下
兵庫県      山地美智子
一つづつ消ゆる寒灯奈良盆地
寒灯や帰る人みな前かがみ
病棟の寒灯一つ灯りをり
寒灯や独りとなりし姉を訪ふ
寒灯や人通りなき屋敷町
静岡県      池ヶ谷章吾
寒燈の一つはこの世我が家かな
冬燈し湯気の溢るる夕餉かな
寒燈下妻の他には猫もいて
寒燈に案内されて千鳥足
勝ち力士汗の光るや寒燈下
三重県      後藤允孝
本堂の四隅に暗き冬灯
寒灯下ペン先鈍る原稿紙
寒灯刃物研ぐ手のもどかしさ
寒灯や子供を叱る親の顔
寒灯かすかに笑ふ犬の顔
愛媛県      加島一善
冬の灯やぽつりぽつりと広がりぬ
山小屋に寒灯ひとつ吊るす猛者
寒灯やひとつふたつと点いてゆく
寒灯や障子に子らの影映す
爆心の川に映るや冬灯
山口県      山縣敏夫
独り者肩を寄せ合う寒灯下
寒灯下今宵独りの手酌酒
寒灯下寂しくないと肩を張り
絶望の気配漂う冬灯し
愛犬に家路を急かす冬灯し
神奈川県      猪狩千次郎
寒燈下翅持つ虫の浮け歩み
寒燈のだいだい色を胸に秘む
天に星古寺寒燈の揺るがざる
闇を払ふ寒燈ひとつ吾ひとり
寒燈や勝鬨橋の静寂闇
神奈川県      川島欣也
冬灯取ってを走る静電気
冬ともし変わらぬ拉致の浜闇し
被災地の暗き寒灯三っ四つ
寒灯下改札終える終電車
寒灯に浮ぶ神橋大谷川
東京都      右田俊郎
ふるさとの過疎化は進む寒灯
寒灯やローカル線の無人駅
寒灯や小樽運河をゆく小舟
寒灯のひとつ灯りてまたともる
夕暮れの寒灯ゆるる魚市場
岐阜県      ときめき人
光あるルオー聖顔寒灯下
三重県      西井治男
夕焼けに人影長く冬灯
寒灯日暖簾をくぐりまず一杯
大阪府      津田明美
寒灯下街のはずれの掲示板
寒灯の一つ紛れて星の宿
湯殿まで渡り廊下の寒灯し
露天湯や沖より暮れて冬灯
密やかに寒灯揺れて家族葬
東京都      豊宣光
寒灯や未来の暗きこの国に
帰宅して寒灯ともす独り者
寒灯に浮き上がりたる金閣寺
寒灯下徹夜で励む受験生
寒灯の貧しき光過疎の村
神奈川県      龍野ひろし
冬ともし牙の鋭き天燈鬼
観音の影おごそかや寒燈下
神奈川県      塚本治彦
寒灯下溲瓶を洗ふ外厠
寒灯や土器修復の学芸員
寒灯や弥陀の半身照らされて
寒灯や繰り返し読む母の文
背表紙を照らす寒灯古本屋
静岡県      雷魚
寒灯に ふわふわ布団 御浄土かな
寒灯に 名も知らぬ犬 ようこそ
寒灯に 伏せて動かず 盲導犬
寒灯に ビールの泡 大喝采
寒灯に 井戸水くむや 茶の庵 
神奈川県      河野肇
三日月のふと舞い降りて冬灯
屋根やねにしみ入る雨や冬灯
さざめける甲骨文字や寒灯下
寒灯や小さき埴輪の人と馬
寒灯の遠きゆらぎや道祖神
神奈川県      成田あつ子
消さず置く一寒灯を熱の子に
紐引きて寒灯ともす一葉忌
寒灯や吾を見送る母小さき
生活の灯寒灯となりやがて消ゆ
母ありてこそ寒灯のやはらかき
千葉県      横井隆和
冬の灯や湯気ほくほくと絹豆腐
寒灯し窓に影射す受験生
寒灯の島影過るクルーズ船
冬の灯や夕餉に恋しタングステン
寒灯下産ぶ声高くあかね朝
埼玉県      小玉拙郎
寒灯や昭和映画の花柳街
寒灯やそれがすべての古本屋
寒灯の岸より小舟漁に出る
終列車去って寒灯のみとなり
奈良県      平松洋子
寒灯内職の手もかじかんで
寒灯終電の音にほっとする
手を繋ぐ二人に優し寒灯
東京都      中田ちこう
寒灯や薪の影濃き軒端かな
奈良県      一人坊
寒灯下一人行く身や遍路道
寒灯も帰路の輝き有難き
路地の猫祇園も更けし寒灯下
愛媛県      アリマノミコ
熟田津の路へと続く冬灯
寒灯や血液検査ふたたびの
寒灯下ルーペ片手に花図鑑
神奈川県      皆空眞而
寒灯の影を消し去る雨の糸
寒灯を過(よぎ)りわが家の寒灯へ
携帯が面差し照らす寒灯下
寒灯の通用口と老守衛
東京都      住澤義英
寒灯下水面に跳ねて虫を喰う
寒灯下吉原夜景影のごと
寒灯下深く息吐き座禅かな
寒灯化ぐずる我が子に涙する
岡山県      岸野洋介
寒灯の集まるところ駅近し
寒灯や遺影の妻は今日も笑み
厠への小き寒灯つけしまま
寒灯下竹馬の友の通夜に出る
老い独り寒灯点し寄合へ
岡山県      うさぎまんじゅう
寒灯や足湯の湯気の白きこと
寒灯のいで湯の町に二人連れ
寒灯も星に混じるや日本海
寒灯や円居に笑う夜は更けて
寒灯や古びた駅舎照らしをり
千葉県      入部和夫
手に温きコンビニカフェや冬灯
滋賀県      村田紀子
山際の寒灯目指す小さき足
寒灯や猫が番する庵かな
寒灯が川面に映り帰路急ぐ
卓袱台に家族揃った寒灯や
神奈川県      松風子
寒灯下愛ある日々を想ふ曲
一寒灯霊屋の奥に揺れもせず
寒灯や丸き火影となりて雪
寒灯や刹那を騒ぐ人の群
みちのくの寒灯ともる雪の駅
ブラジル      林とみ代
寒灯下夫の遺せし杖二本
寒灯の潤む街角人待てば
冬灯路地に商ふ屋台かな
寒灯下メトロ出口の楽師かな
早々と寒灯点し夕の膳
埼玉県      彩楓(さいふう)
寒灯の書肆に人影まばらなり
寒灯をくぐり分かれて女湯へ
寒灯や言葉少なにハイボール
寒灯やシャッター通り商店街
子供乗せ自転車急ぐ冬灯
東京都      皆川里枝
寒灯や新しき駅舎の木のにほひ
車窓より過ぎ行く寒灯里心
寒灯や自転車の音のみ響きけり
過疎の村地蔵の浮かぶ寒灯下
一人歩く寒灯のみの商店街
神奈川県      月野木潤子
波郷忌の朱筆加ふる冬灯
寒灯に紛れてネオン明滅す
己が影おほきく揺らぐ寒灯り
張り紙は忌中の二文字寒灯下
結び目の解けず寒灯ひき寄する
大阪府      太田紀子
薄れゆく荼毘の煙や寒灯
子の麻酔未だ覚めやらぬ寒灯下
一人寝る寒灯消えし闇の中
ブラジル     広田ユキ
寒灯や線香立の灰篩ふ
晩学の俳句に挑む寒灯
寒灯や余生に出会ふホ句の道
百態の水子地蔵や冬ともし
裏町はまだ覚めやらず冬灯
東京都      岩川容子
寒灯下薬の効能読みかえす
寒灯下みな俯きし通夜の客
病める子に本読み聞かす寒灯下
冬灯人を待つ間の古本屋
東京都      かつこ
寒灯に祈り病院帰る道
埼玉県      守田修治
寒灯や図書館隅に学生ら
寒灯や年に一度の籤を買う
靴音に遠吠えしきり冬ともし
研ぎあげし包丁照らす冬灯
東京都      遠山比々き
熱く語る敗者の美学寒灯下
福岡県      西山勝男
余念なき仏師はひたと寒灯
寒灯喪中の家やひっそりと
一つ灯に妻との写経寒灯
寒灯下微醺の歩み正しうす
埼玉県      哲庵
寒灯や単身赴任三年目
駅前の深夜保育所冬灯
寒灯やホームの端の喫煙所
九時に消す小児病棟冬灯
寒灯やシャッター街のはぐれ猫
神奈川県      三好康子
腰据ゑて大和墨摺る寒灯下
阿修羅像のまとふ愁ひや寒ともし
寒ともし父の膝まで這ひ行く子
寒灯下愛染明王拝しけり
子に遺すことばは一つ寒ともし
岐阜県      村瀬佐智子
密室の謎深まりて寒灯
寒灯や地酒楽しむ一人旅
寒灯写経する手の滞る
寒灯や母の寝息の落ち着きぬ
着信の点滅続く寒灯
兵庫県      ぐずみ
地上げ屋の余燼軒端をうつ寒灯
寒灯下露西亜革命百年史
寒灯の無言劇なるハイウエイ
寒灯を窓に uisce とシベリュウス
チャップリンに似た人往くや一寒灯
兵庫県      山崎衣玖
寒灯やポケツト奪ひ合ふ姉妹
寒灯や人家の如きポンプ小屋
寒灯下出口なき元繁華街
寒灯や襟を合はする手の強き
寒灯下赤色灯のとどまりぬ
千葉県      下総真里
寒灯や触診の指ひらめける
また覗く柩の小窓寒灯下