俳句庵

季題 7月「花火」

  • 妻看取り縁に独りの遠花火
  • 神奈川県     髙梨 裕 様
  • 待つほどに闇の整ふ花火かな
  • 神奈川県     佐藤 博一 様
  • 復興の誓ひ新たに花火揚ぐ
  • 東京都     岩崎 美範 様
  • 花火見や妻に押さるる車椅子
  • 神奈川県     塚本 治彦 様
選者詠
  • 手花火に蘇りくる昭和かな
  • 安立 公彦

安立公先生コメント

 数多ある夏の季語の中でも、「花火」は殊に愉しく懐かしい彩りを添える季語です。今月の皆さんの出句を見ているとその思いが深まります。また一句の中に、老若を問わず、恋情や憐情のこもるのも、この季語の持つ彩りの故と言えましょう。
 優秀賞の髙梨さんの句。この句の「看取り」は看病でしょう。長患いの奥さんの看護に疲れた身を夜風に癒している作者。遠くで上がる花火の音。その遠花火の音を聞いていると、さまざまなことが浮かんで来るのです。中七の表現がよく一句を締めています。
 佐藤さんの句。この句も中七の「闇の整ふ」がみごとです。花火を待つ思いが、時の経過と相俟ってよく表現されています。
 岩崎さんの句。去る四月十四日に発生した熊本地震の現況の一つです。被災者の皆さん方には今もご苦労が多いことと思います。そういう中で「復興の誓ひ」とも言うべき花火大会が開かれるのです。「新たに」に皆さんの希望が伺えます。祈るのみです。 
 塚本さんの句。作者は歩行に不自由されているのでしょうか。今日は地域の花火の日。以前は奥さんと出かけていたものを、今は「妻に押さるる」車椅子の身です。しかし一句に暗さはありません。それは「花火見や」という肯定的な表現の故です。
 今回の佳句について。〈上がるたび歓声挙がる村花火 飯沼勇一〉。上五の「上がるごと」は「上がるたび」に。この句の良さは「村花火」にあります。村人の姿が見えてくるようです。〈花火果て空は星座をとり戻す 後藤允孝〉。原句「空に」は「空は」としました。花火大会のあとの夜空の星の瞬きが良く感じられます。〈手花火の煙漂ふ夕座敷 岸下庄二〉。庭で線香花火に興じているお子さん達。座敷では家の皆さんが見ています。漂う花火の煙。平和な家族の姿がありあと浮かんで来ます。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。