俳句庵

5月『冷麦』全応募作品

(敬称略)

冷麦の赤奪い合はぬ児となりぬ
落し蓋押し上ぐ力冷やし麦
冷麦や遠く近くに町の音
冷麦や葦簀に遊ぶ風涼し
冷麦に話さらりとかはしけり
冷麦に艶を添えたる竹の箸
卓袱台に冷麦ならぶ母の里
冷麦の向こう涼しき下駄の音
冷麦やとにもかくにも出汁に凝る
冷麦の赤は当たりと孫の言う
冷麦やいとこはとこの集ひ来て
湯加減と水差し加減冷やし麦
物言いがつく冷麦の茹で加減
冷やし麦噴火休火を繰り返し
冷麦のゴマダレ好きに先ず供ふ
大皿を家族で囲む冷やし麦
冷麦の紅の一本児がつかむ
冷麦に家族の絆ありにけり
塗り箸の間より冷麦さようなら
冷麦やみな閑職となりし友
ガラス鉢重し冷麦泳がせる
冷麦ののどごしさやかしみわたる
食い切れぬ冷麦にある幼き日
序破急をゆでるコツとし冷やし麦
冷麦や配色淡き陶の鉢
箸使いきれいな人や冷やし麦
冷麦やまずは一筋紅掬ふ
冷麦や器はガラス美味さ増し
冷麦を正座くづして食べけり
冷麦のつるりと食べて身もしまる
冷麦や呼ばれて行けば日のかげり
冷やし麦調剤の如く薬味混ぜ
冷麦や金婚式もすでに過ぎ
平成の選手を見つつ冷し麦
割り箸に替へて冷麦綴りけり
冷麦にいかにも長居老過る
冷麦のつけ汁濃いめ母の味
冷麦や腋の下まで冷しけり
山の幸冷麦に添ふ峠茶屋
冷麦の汁を重ねてきりもなや
冷麦や毬麩遊ばす独りの餉
冷麦や捨てし内地の郷里思ふ
冷麦の朱の一筋を游ばせり
冷麦にがばりと立てぬごろ寝かな
冷麦の相伴鬼平犯科帳
一束を妻と分け合ふ冷やし麦
冷麦の喉もつるつる爽やかな
冷麦のさくらんぼうを幼な手に
冷麦の一縷の紅に伸ばす箸
肩書を捨てたる余生冷やし麦
冷麦の一縷の紅に伸ばす箸
冷麦をゆでいる時の電話かな
冷麦や延びた振りして踊りをり
好き好きに薬味整え冷やし麦
冷麦と言ふ涼しさのありにけり
暑夏にほっと一息涼冷麦
冷麦を啜る最上の翁道
冷麦のビラや帳場の声はづむ
冷麦に紫蘇海苔茗荷葱七味
沸騰を水で収める冷やし麦
冷麦の木曽の桧桶の香るかな
冷麦や子に諭さるる不養生
冷麦の薬味それぞれ楽しみぬ
冷麦や母をうとみし若き日は
冷麦をすするやまこと夏を知る
手土産の新茶真に軽きかな
冷麦めせ暑き名古屋の昼下がり
ひやむぎや昭和の残る銀座裏
冷麦の啜る音にも旨さあり
教会の掃除日中や冷し麦
冷麦や筧のごとく喉を越す
冷やし麦好物なりし父の椅子
大鉢に箸の触れ合ふ冷やし麦
手際良き母でありしよ冷やし麦
汗流れ冷麦の味懐かしむ
Tシャツに囲まれている冷やし麦
冷麦や遍路タクシー途中下車
冷麦の箸にからめて人恋し
兄弟で桃色冷麦争える
冷麦の器かこみしみな野良着
風鈴の音も薬味に冷やし麦
『イッシー』のなぞ聞きながら冷し麦
一工夫薬味に凝らし冷やし麦
滝ごとくつるつるすべる冷麦か
冷麦の麦とは如何に啜るたび
桜桃落して子を釣る冷やし麦
もみ洗うこの手の中に夏がいる
冷麦や午後の対策纏めねば
こまめなる差し水加減ヒ冷やし麦
冷麦につゆにしみ込む君の愛
甲子園横目に見つつ冷やし麦
冷麦が喉を流れて生き返る
冷麦の暑さ忘れて空を見る
出し抜けの客に持て成す冷麦かな
差し水を用意して待つ冷やし麦
冷麦や毒舌さらりと聞き流し
空見上げ光映して冷麦か
緩急のゆでるコツあり冷やし麦
冷麦の残る一本箸を逃げ
冷麦に何時ものゆとり戻りけり
こだわりをさらりと捨てて冷やし麦
品書の冷麦の字に迷ひけり
冷麦を出す気安や今日の客
塗箸の躊躇せらるる冷し麦
こだわりをさらりと捨てて冷やし麦
冷し麦苦しき中に義援受く
冷麦や滞り無く一日過ぐ
けふ帰る子に冷麦の噴きこぼれ
冷やし麦家それぞれの薬味かな
冷麦の運命みたり赤い糸
ゆでたてを一気に冷やす冷やし麦
争いの元になります赤い冷麦
喉越しのよきは冷麦えも言へず
冷麦の天麩羅わきに浮くこほり
噛まずとも冷麦すっと喉を越す
冷麦やなによりの昼ごはんとす
冷麦を飾って泳ぐさくらんぼ
冷麦を十束ゆでて休戦す
大鉢に氷と泳ぐ冷やし麦
冷麦を皆で囲んで弾む声
一人居の冷麦すする音となり
冷麦の色つき麺を啜りけり
虫籠と隣り合ったる冷やし麦
ただいまと二人の来る冷麦や
冷麦の飛騨の名水躍りけり
定年や親しくなりし冷やし麦
冷麦を啜る夫婦の阿吽なる
冷麦を皆で囲んで和の心
冷麦のつるりと喉を喜ばす