俳句庵

季題 3月「帰雁」

  • 佇みて暫し見送る帰雁かな
  • 大阪府     木山 満 様
  • 病室の母や帰雁を見しと言ふ
  • 岐阜県     金子 加行 様
  • 幼子の手を振つてゐる帰雁かな
  • 千葉県     伊藤 順女 様
  • 雁帰るミサの鐘鳴る空よぎり
  • ブラジル     玉田 千代美 様
選者詠
  • 美ケ原帰雁のこゑの漂へり
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 三月の題は「帰雁」。秋に日本に渡って来て越冬した雁が、春になると北方の繁殖地に帰ることを言います。雁の他にも、鶴、白鳥、鴨、その他の鳥が、シベリアなどに帰ります。その中で「帰雁」は古くから万葉集や古今集その他、日本の詩歌に詠まれて来ました。その伝統を今も受け継いでいるのが俳句です。俳句はまさに季節のうたです。今月も佳句が多いでした。
 優秀賞の木山満さんの句。この句、表現は卒直ですが、思いの深い句です。「佇みて暫し見送る」、この上五中七は、自身の動作の事実を述べています。それが、「帰雁かな」で、その動作に作者の思いが浸透して来るのを感じます。「見送る」が善いです。
 金子加行さんの句。上五の「に」は「の」。入院の母を見舞に行った作者に、母は帰雁を見たと話すのです。病室の窓一杯に飛ぶ雁は素晴らしかった、と語る母は、心做しか元気そうに見えます。その母を見て安堵する作者の姿が浮かんで来ます。
 伊藤順女さんの句。一読、可憐な幼子の姿が浮かんで来ます。「手を振る」でなく、「手を振つてゐる」と継続の形にしたのが、「幼子」の姿にふさわしいのです。誰しもこういう経験はあります。作者もそう思いながら一句を為したことでしょう。
 玉田千代美さんの句。作者はブラジル在住です。この句、「ミサの鐘鳴る」が美事ですね。教会の姿が浮かんで来ます。「空よぎり」は紺青の空を連想します。「帰雁」はブラジルでも見られるのでしょう。下五のよぎるは、「よぎり」としました。
 今月の佳句。〈迎へ待つ国ある幸や雁帰る 西山ひろ子〉。〈車椅子止めて帰雁を見送りぬ 塚本治彦〉。〈茶毘に付す小高き丘を雁帰る 四葩〉。〈雁帰る夕餉のお茶の温かき 髙梨裕〉。情と景が良く出ています。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。