俳句庵

季題 12月「年の市」

  • 手造りの夫婦箸買ふ年の市
  • 兵庫県     岸下 庄二 様
  • 外人の口上や良し年の市
  • 千葉県     伊藤 博康 様
  • 古書店のここだけ静か年の市
  • 岡山県     岸野 洋介 様
  • 白髪のきみ生き生きと年の市
  • 神奈川県     後藤 真子 様
選者詠
  • 平成の鐘声清に年の市
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 今月の題は「年の市」。皆さんからの出句数は今年最高でした。また内容も千差万別でした。年の市は文字通り十二月に立つ「市」です。歳時記にもある通り、浅草観音の境内に立つ年の市が、規模も集客も最高と言われています。その「年の市」を、皆さんの熱の入った作品の中から読み取るのは、悦びもひとしおです。四者それぞれ、表現も内容も異なる「年の市」を鑑賞しましょう。
 優秀賞の岸下庄二さんの句。年の市での買物は、普通には正月用品が主です。同時に正月を迎える家庭用品も対象になります。この句は「夫婦箸」、それも手造りです。その選択が善いですね。「手造りの夫婦箸買ふ」に、作者の日常が伺えます。
 伊藤博康さんの句。この句は中七が善く出来ています。「口上」ですから年の市の売手です。それも「外人の口上」です。一寸びっくりそますね。さらに「口上や良し」に、しっかりとした日本語が感じられます。この句、まさに平成の世相を見る作品です。
 岸野洋介さんの句。(古本屋は古書店のとしました)。年の市の会場の外れにある古書店なのでしょう。さすがに年の市の賑わいに比べ、店内に人影はありません。しかし作者はその静けさをむしろ歓迎しているのです。中七にその思いが良く出ています。
 後藤真子さんの句。この「白髪のきみ」は売手とするか、同伴者とするかで解釈も異なります。今は売手としましょう。「きみ」が付くから若白髪。年の市の売手として、「生き生き」と口上を述べる「白髪のきみ」。大勢の客の視線が見えて来るようです。
 今月の佳句。〈マネキンの外を見てゐる年の市 松風子〉。〈トロ箱を逃げ出す蛸や年の市 斉藤浩美〉。〈老いの身に余所事なるや年の市 林とみ代〉。〈松作る女庭師や年の市 髙梨裕〉。共に善く出来ている句です。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。