俳句庵

季題 11月「落葉」

  • 眠るてふ安らぎを得し落葉かな
  • 大阪府     藤田 康子 様
  • 落葉道介護施設のバス行けり
  • 東京都     岩川 容子 様
  • 野仏の裾を彩る落葉かな
  • 岡山県     きしの洋介 様
  • 未だ未だと落葉踏み締む古希の坂
  • 神奈川県     髙梨 裕 様
選者詠
  • いま落ちし朴のひと葉や日を返す
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 全ての落葉樹は、晩秋から冬の間に葉を落とします。歳時記を開くと、落葉の項目には行き届いた解説と古今の名句が出ています。落葉は、私たちが普段に目にする、生ある落葉樹のサイクルの一つです。それだけ親しみのある季題と言えましょう。今回も多くの出句がありました。「落葉」には、落葉そのものの生と、それを見守る私たちの日常が重なります。内容のある佳句が多いでした。
 優秀賞の藤田康子さんの句。落葉と言う落葉樹の習性を、私たちの日常になずらえて表現した句です。「眠るてふ」は、日々の睡眠とともにその生涯をも意味します。「安らぎを得し落葉かな」に、落葉を命あるものとして見る作者の思いが善く出ています。
 岩川容子さんの句。(バスが行くは、バス行けりとしました)。正に現代社会の一景です。「介護施設のバス」は、施設でその日を過ごす人たちを乗せたバスです。何らかの障害を持つ人達でしょう。落葉の道を行くそのバスを、作者は温かく見守っているのです。
 きしの洋介さんの句。山村の道の辺に野仏の坐す景はよく見ます。その古りた石仏は風雪にさらされ、しかし村の人たちには敬われ親しまれて来ました。今その石仏に、落葉が彩るように積み重なっているのです。野仏と落葉の自然な和みが善く出ています。
 髙梨裕さんの句。(まだは未だとしました)。この落葉は現実の落葉であり、また作者の感性の中の落葉でもあります。古希となった自身を、未だ未だと励ましているのです。「踏み締む古希の坂」が、その思いを確りと現わしています。立派な覚悟です。
 今月の佳句。〈潜むものあるや落葉をそつと踏む 高見正樹〉。〈平成に別れを告ぐる落葉かな 山縣敏夫〉。〈柔らかに風の連れ来る落葉かな 加藤正子〉。落葉への暖かい思いが善く表現されています。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。