俳句庵

5月『浴衣』全応募作品

(敬称略)

愛知県      遊泉(ゆうせん)
浴衣着て外人家族大はしゃぎ
今もなほ亡母(はは)縫ひくれし浴衣着る
貴婦人の少し艶めく浴衣かな
浴衣着て力士一行降り立ちぬ
家康の遺愛の浴衣展示さる
岐阜県      金子加行
旅の地の祭浴衣を借りし宿
踊り慣れ浴衣も下駄も凝りし人
藍浴衣少しく若きなりし妻
復興の祭に選ぶ浴衣柄
居酒屋に並ぶ浴衣の異国人
大阪府      金成愛
初浴衣がらざる少年の背中
奪衣婆に追いかえされた浴衣かな
神奈川県      白銀
縁日で 浴衣姿で  初恋に
浴衣姿 一目会いたい 湖畔の人
浴衣着て 袖うるおすに 華麗しぐさ
浴衣着て 風呂に入って どっぷりと
浴衣から 混浴デート  露天風呂
新潟県      近藤博
浴衣着て則天去私や縁に座し
湯上りにまとふ浴衣の清々し
浴衣掛け宿下駄からころ夜の湯町
湯の旅や部屋に着くなり浴衣着る
浴衣掛け縁台将棋今は昔
宮城県      石川初子
綿あめへ駈けだしてゆく浴衣かな
大阪府      藤田康子
今昔館外国人の浴衣かな
母の縫ふ浴衣を着ては風呂上がり
千葉県      冨田柊二
父となる父の匂いや藍浴衣
兵庫県      岸下庄二
伝統の鳴海絞りの藍浴衣
湯を巡る宿の浴衣に宿の下駄
寛いで心を開く宿浴衣
息子には丈の短き宿浴衣
浴衣着て男勝りを隠しけり
栃木県      鹿沼 湖
結ひ上ぐる髪とピアスと浴衣かな
路地裏の浴衣姿の芸者かな
旅の宿浴衣の妻の白き足
丈少し長き浴衣や旅の宿
襟足にほつるる髪や藍浴衣
京都府      田端敏弘
小康のからころからと添う浴衣
小康に帯の長めの浴衣かな
東京都      石川昇
貸浴衣着て満悦の異国女子
女子力を高める浴衣姿かな
お互いに柄を誉め合う浴衣かな
神奈川県      佐藤博一
浴衣着て少年手足を持て余す
糊固く角の立ちたる宿浴衣
少年の脱皮の如き浴衣かな
浴衣着て少女羽化する日暮かな
別人のやうな妻いる浴衣かな
神奈川県      守安雄介
朝市の浴衣と草履揃え寝る 
浴衣着て優雅となりし箸使い
平成の浴衣の柄の暑苦し
アイシャドゥ夜市の浴衣皆美顔
浴衣娘(ゆかたこ)のステーキ三皿パン五つ
東京都      安西信之
おびとけば火薬の匂ふ浴衣かな
内股に人を待ちたる浴衣かな
ブロンドの髪を巻き上げ初浴衣
浴衣着て母も女に戻りしか
踝のきざはし上る浴衣かな
長野県      木原登
浴衣着てほたるを追ひしことはるか
浴衣着て心の武装ときにけり
縫ひ呉るる母の亡ければ浴衣なし
また元の二人となりし浴衣かな
かの世なる母百五歳浴衣はあるか
兵庫県      岸野孝彦
浴衣着て少女もやがて母になる
銭湯へ浴衣で急ぐ根岸かな
宍道湖の夕陽眺める浴衣かな
紺生地の母の形見や艶浴衣
初恋の娘重なる浴衣かな
神奈川県      片桐と志え
三姉妹しゃぼんの香り浴衣掛け
浴衣着の金のピアスの伊達男
千葉県      伊藤博康
両国の駅に浴衣の力士かな
肩揚げをおろし着てみる浴衣かな
母の手を抜け出し走る浴衣の子
裾捌き慣れぬままなる浴衣かな
畳まれし浴衣の上の帯一本
東京都      金井美智子
銭湯に向かう浴衣は父の背中
神奈川県      松風子
寄り添ひて囁き合へる浴衣かな
艶やかな声のガイドや初浴衣
逢いに行く浴衣や雨に濡れながら
藤色の雨とや思ふ藍浴衣
浴衣着て素知らぬ顔の人となる
愛媛県      中川正子
糊浴衣母の着丈を着たる宵
初浴衣夜の柔さを袖に容れ
東京都      勢田清
とりどりの浴衣あでやか娘たち
鬼子母神浴衣姿も混み合いて
行水に晴れ晴れとして浴衣かな
もうすでに踊り出したる浴衣かな
朝顔を提げて浴衣の若やげる
東京都      内藤羊皐
脱ぎ捨ての浴衣に残す逢瀬かな
浴衣着て湯の街かどを迷ひをる
浴衣着て虫を捕らへる女かな
湯の宿の妻の浴衣の大振りに
星屑の匂ひを秘める浴衣かな
兵庫県      はなちる
今様にスマホスリッパ浴衣着る
星明り浴衣の君の足白し
湯上がりの素肌に纏い旅浴衣
娘の背伸びて浴衣の帯結ぶ
旅浴衣夫婦で選ぶ古典柄
兵庫県      噂野アンドゥー
夏祭り 浴衣に泳ぐ 金魚かな
故郷の 味に誘われ 浴衣着る
浴衣着て 田舎に帰る 夏休み
線香の 花火に恋する 浴衣かな
汗ばんだ 浴衣美人の うなじかな
埼玉県      飯塚璋
すれ違う浴衣の女湯のにほひ
愛知県      傑
格子越し薄柿浴衣黒い帯
三重県      平谷富之
色と柄 同じ浴衣の 親子かな
浴衣着て 少女は乙女と なりにけり
宮城県      林田正光
黄昏の初浴衣かな帯直す
一つづつ母の仕草や古浴衣
二つ三つ歳上となる藍浴衣
愛媛県      渡邊國夫
野球観戦久方振りに浴衣着て
宿浴衣着れば西郷どんゐるやうな
縁日へせがむ縫上げ浴衣かな
箪笥の肥し母が手縫の藍浴衣
縁側にポッペンを吹く浴衣の児
東京都      伊藤はな
子のために井桁模様の浴衣縫ふ
幼子の揃ひの浴衣笛太鼓
藍浴衣うす糊つけて明日のため
黄の帯に浴衣の藍や墨田川
ピアスして郡上音頭の浴衣かな
神奈川県      塚本治彦
膝枕浴衣の藍の匂ひけり
老父母へ揃ひの浴衣仕立てけり
浴衣着て女盛りの四十八
どことなく丈のちぐはぐ貸浴衣
縁台の将棋浴衣の袖まくり
神奈川県      井手浩堂
案内は浴衣むすめの京言葉
胸高に赤き帯締め藍浴衣
西郷のごとく浴衣に犬つれて
神奈川県      猪狩 千次郎
金髪の女将は藍の浴衣かな
おほどかに着てこそ君が浴衣かな
父が着し浴衣に小さき煙草跡
浴衣人夜の鎌倉を睥睨す
胸元の琴柱取り出す浴衣かな
福岡県      紙田幻草
くつろげるものに浴衣と胡坐かな
脛見せて洗ひざらしの浴衣かな
無雑作に洗はれてゐる浴衣かな
毎年のことよ浴衣を新しく
宿浴衣サイズを二つ用意され
東京都      岩崎美範
夭折の姉の小さき古浴衣
ピアノバー隅に浴衣の女客
幸せの家族四人の旅浴衣
過ぎし日や妻と揃ひの染浴衣
浴衣着て女に化ける孫娘
富山県      岡野満
湯の町やお高くとまる宿浴衣
川風に浴衣の裾の乱れけり
胸元を少しはだける浴衣かな
大阪府      津田明美
しつけ糸解き飛び出す浴衣の子
古浴衣襁褓作れと笑う母
一幅の夕風誘う浴衣かな
手をつなぎ浴衣の君と戻り橋
思い出も解き浴衣に鋏入れ
神奈川県      ぐ
大輪の浴衣や祖母も女だつた
周りから浮けども祖母の古浴衣
湯上がりの星の匂える藍浴衣
神奈川県      矢神輝昭
七回忌形見の浴衣手を通す
児の浴衣出して見遣ればつんつるてん
山の湯に浴衣はらりと岩の上
定年や浴衣一つの身の軽さ
温泉場揃いの浴衣みやげ店
岐阜県      ときめき人
郡上川水面に映える藍浴衣
三重県      後藤允孝
ほろ酔ひの足の乱るる宿浴衣
襟足の色香ただよふ藍浴衣
お転婆の影を潜める初浴衣
若者の角帯凛々し宿浴衣
浴衣着て小股歩きのぎこちなさ
兵庫県      山地美智子
老いし母の病衣となりし古浴衣
藍浴衣襟足白き京美人
浴衣の子鬢の解れが気にかかる
お揃ひの新婚さんの宿浴衣
浴衣着て鬢の解れは流行とか
栃木県      長浜 良
浴衣着て心はずみぬ遠太鼓
手繰り上ぐ浴衣の袖や王手飛車
宿浴衣着崩れ早きクラス会
熊本県      貝田ひでを
御下がりの妹不機嫌古ゆかた
物言いの母に似てきて藍ゆかた
浴衣着て町家歩きの三、四人
乙女らの裾まちまちに宿浴衣
北海道      北野きのこ
貸浴衣あいつにしては良いセンス
浴衣なる吾子に見つけし喉仏
背の高き君の浴衣の左前
腰元と浴衣の間の湿気かな
陽の高し浴衣のままで朝食へ
大阪府      永田
お下がりや浴衣の糊をきつく付け
行きたきは八尾郡上よ浴衣縫ふ
神奈川県      伊原文夫
童心に帰る揃いの浴衣かな
やや短か二世代語る浴衣かな
山口県      ひろ子
夕闇の浴衣行くなり下駄の音
綿菓子をなめつつはしゃぐ浴衣の子
腕まくり浴衣勇まし夜店かな
徳島県      白井百合子
日影干し浴衣の裾や風そよぐ
丈短か母の形見や藍浴衣
印籠や踊り浴衣と黒の帯
たこ焼きのソースの付きし浴衣かな
浴衣着て肩のふれあふ赤いほほ
東京都      松岡加代子
東京音頭浴衣がぐるり輪を作る
宿浴衣外湯巡りの下駄の音
藍浴衣踊る阿呆に見る阿呆
ペディキュアもピアスもありて初浴衣
瑞々し舞妓の素顔藍浴衣
神奈川県      原川泉水
大洗浴衣の裾に磯の風
流れ星落ちて浴衣の襟光
星高く潮香浴衣の胸に充ち
逝きし父吾が愛用の浴衣着て
町興し揃いの浴衣親しめり
岐阜県      雅風
お揃いの浴衣かはゆき双子かな
相撲部屋の窓に干さるる大浴衣
妻逝きてタンスに遺る藍浴衣
睦まやか外湯めぐりの宿浴衣
大人びて娘の浴衣艶めける
神奈川県      成田あつ子
家庭科の浴衣に母の助けあり
糊つよき着れば奴や宿浴衣
帯の色違へ姉妹の浴衣かな
湯疲れに糊やはらかき藍浴衣
桐下駄の足さばきよし浴衣かな
奈良県      一人坊
今宵より里人となり浴衣掛け
三味の音や浴衣のデート茶髪の娘
借り浴衣祇園の街に馴染めるや
東京都      原井 壮
浴衣から胸の谷間の深さかな
肩脱ぎの浴衣の漢ちゃんこ番
節制をしろと言はんや浴衣帯
女の子より浴衣を褒める男の子かな
隈を取る團十郎の浴衣かな
愛媛県      加島一善
姉ちゃんのお下がり貰い初浴衣
青い眼につんつるてんの貸浴衣
赤子泣き婆ばの解く古浴衣
湯帳着て女帝気分の道後の湯
母さんと揃いの浴衣揺れる竿
山口県      山縣敏夫
湯の町に溶け込む姿宿浴衣
縁側に浴衣姿はよく似合う
丁寧に浴衣をたたむ旅の妻 
浴衣着てそぞろ歩きの老夫婦
浴衣手にニッコリ笑う旅の宿
奈良県      平松 洋子
絵羽柄の映えたる浴衣祖母好み
子の浴衣やっと着付けて親の笑み
腰揚げを解いて驚く子の成長
浴衣の子天に手を打ち音頭とる
東京都      石井昌男
関取のサドルを隠す大浴衣
貝の口姉妹揃ひの藍浴衣
藍浴衣京の町並めずらしや
大浴衣サドルを隠す清洲橋
清洲橋サドル隠るる大浴衣
埼玉県      櫻井俊治
襟を抜き女将着こなす藍浴衣
射的場色とりどりの宿浴衣
神奈川県      月野木潤子
がま口の小鈴の音も初浴衣
浴衣の父信玄袋すぐ忘れ
角帯は小倉織なり糊浴衣
光琳水染め抜き浅葱ゆかたかな
ゆかた着てかぼそき手首まはし見る
東京都      豊宣光
隅田川浴衣姿の相撲取
湯上がりにほど良き風や初浴衣
押入に父の形見の藍浴衣
藍浴衣見ゆるうなじの白さかな
浴衣着て外国人の足湯かな
ブラジル      林とみ代
湯上りに肌触り良き浴衣かな
浴衣着て下駄音軽き湯宿かな
久方の同窓会や宿浴衣
浴衣着て心休まる里帰り
賑やかに浴衣まとひて土佐音頭
埼玉県      よしこ
風呂上がりさらつと夫の宿浴衣
子の浴衣背丈そのまま小さきこと
浴衣縫ふ背丈を聞けば即答す
夕風に母の浴衣を持ち出しぬ
藍浴衣をすらり着こなす伊予訛り
北海道      飯沼勇一
金髪の白き二の腕古浴衣
旅の宿背丈の足りぬ借浴衣
舟遊びやはり浴衣を着て行くか
お揃いの浴衣着る女子村まつり
袖抜ける風を染めたり藍浴衣
東京都      中田ちこう
藍褪せし浴衣に残る仕付け糸
神奈川県      龍野ひろし
振り向けば京に浴衣の異国人
子のために丈詰めしたる浴衣かな
夕電車浴衣の娘溢れけり
神奈川県      皆空眞而
竹籠に野草の栞宿浴衣
湯上りの浴衣の前を花結び
朝顔を咲かせまとひて浴衣行く
ピンポンを浴衣はだけて打つ本気
新潟県      じゃすみん
藍浴衣揺れる夜風の山の宿
公園の乳やる浴衣夕間暮れ
抽斗の奥より浴衣と恋文と
長崎県      塩豆
胸中を隠す浴衣の袖几帳
浴衣より懐紙のすつと現るる
岡山県      岸野洋介
老いてなお端正なれと糊浴衣
浴衣着る孫の項のういういし
湯煙や両手ではがす宿浴衣
浴衣着て土用夜市の人となる
浴衣着て我に添いくる妻いとし
東京都      利尻
流し目の浴衣役場で見た娘
囃方浴衣揃ひて隙もなし
足湯処揃ひも揃た浴衣尻
少年の伏し目試して花浴衣
浴衣着て女の余すところなく
滋賀県      村田紀子
雨上がり浴衣姿の雲ながる
三歳児おちょぼ口して浴衣着る
浴衣着て小走りをする下駄の音
神奈川県      河野肇
浴衣着て父母揃ふ夕餉かな
浴衣着のシェークスピアよもう一献
癌の父笑みてまとひし浴衣かな
原子炉といふもののある浴衣かな
父母のそろひの浴衣谷の宿
埼玉県      守田修治
浅草寺日の色透ける浴衣かな
したたかに将棋さす子の浴衣かな
浴衣脱ぎ園児に戻る姉妹かな
父の忌や父の匂いの浴衣干す
屋台には裸電球浴衣の子
ブラジル      玉田千代美
紙人形に浴衣を着せて一人住む
髪形を変えてさっぱり浴衣着る
秘め事も公にして宿浴衣
浴衣着て茶会を訪ふ母娘かな
リハビリの一歩励ます浴衣縫ふ
東京都      岩川容子
入院の荷に加えたる藍浴衣
東京音頭町の揃いの浴衣着て
履き慣れぬ下駄にてこずる浴衣の子
湯の香り残る浴衣をたたみけり
福岡県      西山勝男
浴衣着て踊りの列へ紛れけり
一時の釣りにあやかる宿浴衣
老刀自の物腰ゆかし藍浴衣
城崎の外湯をめぐる宿浴衣
浴衣着てうしろ姿の父似とよ
奈良県      堀ノ内和夫
外湯巡り寸足らずの浴衣着て
古浴衣暖簾になりて揺れてをり
埼玉県      哲庵
ミニ浴衣疾走渋谷交差点
古浴衣孫のおむつに昇格す
マラソンのゼッケンで縫ふミニ浴衣
婚活や浴衣美人の勢揃い
終活の始めや浴衣選び捨て
千葉県      入部和夫
浴衣着て女となりし幼き児
神奈川県      川島欣也
浴衣縫う帰国の孫子待ちわびつ
丈と袖微妙に会わぬ宿浴衣
浴衣着る子供戸惑う鼻緒ずれ
町名を背に大きく盆浴衣
ドラえもんのびたの柄の子の浴衣
大阪府      鈴木健夫
浴衣掛け明日の出勤そなえをり
こすずめや揃い浴衣で胸をはる
浴衣色顔にあうやらあわんやら
宮城県      AQ
下駄ならし回って跳ねて初浴衣
押し入れの浴衣に潮の匂ひけり
地下街の花となりたる浴衣の子
藍浴衣着てなお青きまなざしに
東京都      遠山比々き
浴衣着て油断してをり盆の窪
ぼんのくぼ清しくさらす藍浴衣
浴衣着てかぶりつくハンバーガーに
浴衣着て話すハングル浅草寺
しとやかに影あゆまする浴衣かな
大阪府      鈴木尚子
茄子紺の浴衣の帯は何色か
埼玉県      彩楓(さいふう)
多分これが最期の浴衣車椅子
父親に送られて行く浴衣の子
母さんの浴衣私に丁度良い
きっぱりと断るつもり藍浴衣
不承知はこちらの事情藍浴衣
大阪府      椋本望生
浴衣着て元の背丈を取り戻す
膝小僧宥め賺して白浴衣
モノクロの母の浴衣着見て飽きぬ
せせらぎと揃ひ浴衣の三味線と
帯解けば心も拡ぐ宿浴衣
千葉県      堀河真里
髪の色黒に戻して浴衣かな
浴衣着て寡婦なる友の背の真直
拝殿の白木の匂い藍浴衣
神奈川県      海野優
姿見へ幾たび直す浴衣帯
手鏡に紅薄く引く浴衣かな
東京都      右田俊郎
浴衣着て帯きゅっと締め下駄を履く
浴衣の子鏡の前でひとまわり
大人びて妻に似てくる浴衣の子
似合ふかと鏡の前で浴衣の子
背が伸びて去年の浴衣つんつるてん
愛知県      川俣周二
子の浴衣今年は丁度丈の合ふ
夜の更けて母の浴衣を解きをり
古浴衣母の忌日に探しをり
兵庫県      ぐずみ
浴衣着てからだに風の吹く昭和
神奈川県      三好康子
意地張るも意地を捨つるも浴衣掛
くるぶしも頬も丸き子初ゆかた
身に馴染む鳴海絞りの浴衣かな
軽石で足裏磨く子初浴衣
待ち合はす面影橋の藍浴衣
岐阜県      村瀬佐智子
姿見を繰り返し見る浴衣の子
短めの藍の浴衣にスニーカー
浴衣着せデートと言う子送り出す
濃き藍の浴衣着流す娘婿
浴衣着て女三代街歩き
福岡県      多事
引力に負けてをのこに浴衣合ふ
男子との距離はかりかぬ浴衣かな
重力を娘はものとせぬ白浴衣
京都府      中村 万年青
うれしさに浴衣からげた幼き日
長姉(ねえさん)の手縫いの浴衣晴れがまし
遠き日の入院中の白浴衣
神奈川県      髙梨 裕
透析を浴衣に委ね踊りの輪
夕闇の奥へ奥へと浴衣連れ
音頭取る揃い浴衣の手八丁
浴衣の背お父さんねと里の母
女教師の妻も浴衣の夜となり
東京都      五十嵐 秀山
浴衣着て太鼓の音に誘われて
浴衣がけ見栄切る所作の裾さばき
浴衣着て水撒く朝の下駄の音
柳朝の最寄りの床屋藍浴衣
秩父嶺に兜太・たい平浴衣着て
東京都      豊島 仁
湯上りの浴衣秘かに妻女
浴衣着てでんぐり返る帰郷かな
寅さんの旅の鞄に浴衣あり