俳句庵

4月『鳥帰る』全応募作品

(敬称略)

宮城県      石川初子
鳥帰るニルス少年旅おえて
新潟県      近藤博
鳥帰るコンパス持つがに北の空
湖に羽撃きしげく鳥帰る
日の沈む空に群れなし鳥帰る
遠ざかり雲居はるかに鳥帰る
北に向け高く群れなし鳥帰る
神奈川県      髙橋榮一
思ひ出の写真なつかし鳥帰る
鳥帰る仁王に確と見守られ
餌あげし児らにまたねと鳥帰る
空っぽの大池残し鳥帰る
人の世のことはさておき鳥帰る
岐阜県      金子加行
また戻る寂しき沼や鳥帰る
友の去る思ひに似るや鳥帰る
何千年同じ道のり鳥帰る
一本の道のあるかに鳥帰る
美しき集団演技鳥帰る
北海道      吉岡亨徹
大湿原ヒロシゲブルーと帰る鳥
瑞鳥や崑崙八仙(ころばせ)舞いて雲に入る
赤帽子ワルツの軌跡帰る鳥
大阪府      藤田康子
鳥帰る又会えるとて惜しむなり
大空へ又長旅の鳥帰る
堀の面に約束残し鳥帰る
愛知県      遊泉(ゆうせん)
引鳥の列乱れざるビルの街
引鳥の北帰行かな雨上る
夕暮れの煙る湯の街鳥帰る
鳥引くや伊勢神島の海に立つ
がん病める妻は寛解鳥帰る
兵庫県      紫 桔梗
大空の道を辿りて鳥帰る
一羽発ちそれを機にして鳥帰る
鳥帰る今は昔の流人島
殿の少し遅れて鳥帰る
山城の天守閣越え鳥帰る
神奈川県      守安雄介
潮騒の津軽海峡鳥帰る
阿寒湖を一泳ぎして鳥帰る
鳥帰る視力検査の文字となり
吾知らぬシベリアに向け鳥帰る
利尻富士斜めに過ぎり鳥帰る
熊本県      貝田ひでを
見上ぐれば児の指す彼方鳥帰る
名を変へて蛇行する河鳥帰る
鳥帰る村史に謎の古墳群
肥後豊後分かつ頂鳥帰る
大阿蘇は肥後の宝や鳥帰る
千葉県      柊二
飛行機のはりつく空を鳥帰る
神奈川県      佐藤博一
風を読み風に従ひ鳥帰る
待つ人のいる幸せや鳥帰る
産土の風に誘はれ鳥帰る
羅針盤空にあるかに鳥帰る
故郷は近くて遠し鳥帰る
大阪府      藤田悟
鳥帰る馴染む水面を未練なし
はぐれずにみんなで行けよ鳥帰る
神奈川県      衛藤佳也
風となり日暈のなかに鳥帰る
鳥帰る後ろ姿に決意あり
陸とぎれなお海あるに鳥帰る
京都府      欲句歩
指先を伸ばせば紲鳥帰る
島訛り通して遂げて鳥帰る
鳥帰る一旦捨てし隠岐訛り
神奈川県      野口香緒里
雲流れ光の道へ鳥帰る
鳥帰る春の訪れまだ遠し
鳥帰る鎮守の森へ夕焼けと
長野県      木原登
啄木の立待岬鳥帰る
さざ波の綺羅置き去りに鳥帰る
天上に亡き師亡き友鳥帰る
ケ・セラ・セラ好きか嫌ひか鴨帰る
昨日今日ありて明日あり鳥帰る
神奈川県      白銀
鳥帰る 那須烏山  雪解けに
鳥帰る  面影待てよ  我が街で
鳥帰る 光と闇の  人影に
鳥帰る  街角で会い  別れと死
鳥帰る  やうやう鳴くに 山奥へ
千葉県      伊藤博康
鳥帰る仲間と一緒ならば行く
ざわざわと水面を乱し鳥帰る
振向きもせずまつすぐに鳥帰る
佐賀県      古賀由美子
鳥帰るオーロラもまた遥かなり
鳥帰る失くした記憶探してる
望郷の記憶は遥か鳥帰る
抽斗にセピアの写真鳥帰る
鍋からはホクホクの湯気鳥帰る
三重県      平谷富之
母の死を悲しみ鳥は帰りけり
WBC結果気にして鳥帰る
大阪府      ひいらぎ
世知辛い日本あきらめ鳥帰る
終の地は何処になるや鳥帰る
鳥帰る我も故郷を焦がるるや
鳥帰るあてなき我の猫背かな
鳥帰る赤いゼリーの空の方
埼玉県      飯塚璋
がらんどう岸にさざなみ鳥渡る。
がらんどう岸にさざなみ鳥帰る。
滋賀県      了庵
鳥帰る空に国境なかりけり
新しき家族を連れて鳥帰る
鳥帰る空のどこかに鳥の道
湖にさざ波残し鳥帰る
一湾を空っぽにして鳥帰る
宮城県      林田正光
鳥帰る往復葉書返信よ
風見鶏回り始めて鳥帰る
北を指す磁石どおりに鳥帰る
鳥帰る高層ビルのその上を
鳥帰る空の駅にて一休み
愛媛県      高橋美弥子
鳥帰る伝へたきことあまたあり
東京都      岩崎美範
鳥帰るスカイツリーを旋回し
ふるさとはあの雲の下鳥帰る
達者でと手を振る妻や鳥帰る
鳥帰る帰る目処なき地震の街
故郷なき東京人や鳥帰る
東京都      内藤羊皐
鳥帰る311の蒼天遺し
鳥帰る淫らな星を道連れに
鳥帰る太鼓橋址の空深し
夕暮の朱を染めりて鳥帰る
襲名の芝居かかるや鳥帰る
神奈川県      長島マミコ
抱えしは過去か未来か鳥帰る
神奈川県      シュリ
空の道風満ち満ちて鳥帰る
鳥帰る焼き場の煙見送って
時の針カチリと進み鳥帰る
友残しすまぬと鳴いて鳥帰る
大空の道が開きて鳥帰る
ブラジル      西山ひろ子
帰る場所在る仕合はせや鳥帰る
大空の一つの道を鳥帰る
低く高く乱れぬ列や鳥帰る
鳥帰る大きく小さく廻りたる
二カ国を移民の如く鳥帰る
埼玉県      岸保宏
鳥帰る船漕ぐ祖母に風避けり
廃校の屋根見下ろして鳥帰る
学窓の空狭くして鳥帰る
長崎県      内野 悠
難民の国境越へを鳥帰る
呼ぶ声の見へたるごとく鳥帰る
しばらくは壱岐に立ち寄り鳥雲に
鳥帰る日本の空を汚さずに
いつせいに泥水零し鳥帰る
滋賀県      一斤染乃
順々に助走の水面鳥帰る
山梨県      万屋あたる
恨み言 Twitter にのせ鳥帰る
神奈川県      井手浩堂
退院の決まりたる窓鳥帰る
鳥帰り湖広くなりにけり
鳥帰る鎮守の森をまづ越えて
帰る鳥海の国境越えるころ
鳥帰る水面を羽搏つ音たてて
三重県      遊眠
みちのくは黙とうの午後鳥帰る
凄まじや廃炉を越えて鳥帰る
鳥帰る群れを離るる被ばく牛
兵庫県      山地美智子
鳥帰る里に残りし老夫婦
帰る鳥郷振り返ることはなし
鳥帰るその羽ばたきの休みなし
鳥帰る夕日の当たる山の色
南北に長き連山鳥帰る
滋賀県      村田紀子
鳥帰る湖面に波紋輝かせ
風止んで子等の歓声鳥帰る
帰る鳥見送る翁腰伸ばす
鳥帰る飛行機雲を横切って
鳥帰り波紋無き湖トンビ舞う
大阪府      森村冨美子
幾つもの風を乗り継ぎ鳥雲に
幾千の山川ながめ鳥帰る
湖に残る仲間をおいて帰る鳥
風を読み雲を追いかけ鳥帰る
帰る鳥飛沫きらめき水面立つ
東京都      住澤義英
里ごころ今日も明日も鳥帰る
鳥帰る飛び立つ先は群れ任せ
屋敷林見えては消えて鳥帰る
鳥雲に別れを惜しむ鐘の音
長旅に望みふくらむ鳥帰る
三重県      後藤允孝
暮れなずむ空へ一陣鳥帰る
北空へ向きを変えつつ鳥帰る
友とまた酌み交わす酒鳥帰る
蒼天に声つなぎをり鳥帰る
鳥帰る夕日に羽を光らせて
大阪府      津田明美
みちのくの復興半ば鳥帰る
被災者に帰郷いつの日鳥帰る
鳥帰る地は同胞の今もなほ
友去りし空を濁して鳥帰る
又逢うは祈りに託し鳥帰る
大阪府      永田
徴兵の国もありなむ鳥帰る
復興の完遂待てず鳥帰る
愛媛県      加島一善
鳥引くや池に静寂戻りけり
鳥帰る舞ひ納めたる池の上
鳥帰り石の転がる寂しさよ
帰る鳥旨き物食い脂肪肝
鳥引くや共に去りゆくカメラマン
神奈川県      塚本治彦
鳥帰る雲一つなき北の空
北方の領土還らず鳥帰る
任期果つる再任用や鳥帰る
鳥帰る水面ひねもす落ち着かず
退院の決まらぬ父母や鳥帰る
長野県      岩岡啓一
パンの耳最後の1片渡り鳥
兵庫県      噂野アンドゥー
スワローズ 優勝の力 もう一度
夕焼けや 烏帰れば 子も帰る
鳥帰る 季節の変わり目 取り替える
桜咲き 鶯鳴くや 桜散り
春が来た 我が家の軒に つばめの巣
岩手県      堤久夫
何も無い日高見の田や鳥帰る
句帳手に待ちし診察鳥帰る
鬼や住む山並みはるか鳥帰る
鳥帰る朝餉頬張りアルバイト
夫の手妻振り払い鳥帰る
東京都      宮下洋
破れ羽根を あまた残して 鳥帰る
鳥帰る 日となりたるや ざわめける
啼き交しつつ遠ざかり 鳥帰る 
帰る日を 定めゐたらし 鳥帰る
この空を ひとまはりして 鳥帰る
愛媛県      渡邊國夫
加茂川に虚しさ残し鴨引けリ
鳥帰る山に修験の法螺の音
鳥雲に土地改良の扇状地
弘法の水湧く浦や鳥曇
老農の畦に一服小鳥引く
岐阜県      蛙田 環
絵手紙の色えんぴつや鳥帰る
軒低くく古い町並鳥帰る
鳥帰る土産はみちのく金色堂
啄ばみて力たくはへ鳥帰る
朝市のおばばの手拭鳥帰る
静岡県      城内 幸江
鳥帰る薄紅に浸りたし
水面には静寂はなく鳥帰る
雨の日の淡き匂よ鳥帰る
東京都      佐藤博重
高層の千のまなざし鳥帰る
国境といふしがらみや鳥帰る
鳥帰る眼下のクルス標とし
東京都      伊藤はな
光満つ雲の果たてを鳥帰る
あらましの装ひ見せし鳥帰る
引鳥のパスポートレス定期便
高々と風を捕まえ鳥帰る
引鳥の声の残像風となり
大阪府      太田紀子
草生ゆる軍人墓地や鳥帰る
鳥帰るダム湖に夕日流れをり
鳥帰る航跡白き瀬戸内海
神奈川県      海野優
鳥帰る少女へ思ひ告げぬまま
人ごみに異国のことば鳥帰る
生涯は短編小説鳥帰る
手びさしの少年はるか鳥帰る
鳥帰る故郷の思ひ捨て難く
奈良県      平松洋子
地球儀の記憶辿りて鳥帰る
両の手を挙げ振るばかり鳥帰る
岬抜け果てなき旅や鳥帰る
埼玉県      彩楓(さいふう)
鳥帰る農機具小屋に星座盤
鳥帰る噴煙高き桜島
鳥帰る耳の形は父に似て
鳥帰る遺伝子といふ地図を持ち
仏間には先祖の写真鳥帰る
神奈川県      龍野ひろし
ロビングの舞ひあがる空鳥帰る
鳥帰る飛行機雲を追ひかけて
鳥帰る一羽たりとも落伍すな
埼玉県      よしこ
鳥帰る下総辺り消え行きて
鳥帰る数多の人を通り過ぐ
大空の先へ先へと鳥帰る
v字型道ある如し鳥帰る
鈍色の空疎らなり鳥帰る
東京都      豊宣光
夕映えの海静かなり鳥帰る
鳥帰る錦を飾り故郷へ
難民に帰る家なし鳥帰る
水面打つ羽ばたき残し鳥帰る
鳥帰る夕べの膳の肉団子
長野県      けいこ
待つひとが向こうにもいて鳥帰る
神奈川県      成田あつ子
高窓の富士見へぬ日や鳥帰る
大空に道ありなむや鳥帰る
惜しむ間もなき別れあり鳥帰る
雲路にも世界地図あり鳥帰る
眼裏に蒼き湖(こ)とどめ鳥帰る
山口県      磯部清昭
鳥帰る義父の抑留されし地へ
鳥帰る薄らひでゆくあの日へと
東京都      右田俊郎
鳥帰る校舎の窓に手を振る子
鳥帰る都会のビルの無表情
吾もまた村離るとき鳥帰る
また来いと帰る鳥らに呟く子
廃校を告げる校長鳥帰る
三重県      治もがり笛
つがい鳥帰る支度を子に教え
温暖化予測早めて鳥帰る
東京都      遠つ紫人
鳥帰る 飛行機雲の 棚引けり
茶柱の 立ちし吉日 鳥帰る
鳥帰る 4月始まり 日記買う
山口県      山縣敏夫
登下校群れなす子等に鳥帰る
北帰行愛犬供に家路急く
北帰行唄う二人の旅烏
連れ合いとそぞろ歩きに鳥帰る
ふる里の棚田の嶺を鳥帰る
東京都      紫鴨
鳥帰り 戻る冬型 寒気団
鳥帰る 飛影図鑑で 確かめる
靖国で 開花宣言 鳥帰る
鳥帰る 声や無音の ジョン・ケージ
鳥帰る 花粉マスクの 多き街
目覚ましの スヌーズ三度 鳥帰る
神奈川県      矢神輝昭
鳥帰る旅路の先へ駆るものは 
鳥帰る行くてを追うは茜雲
鳥帰る吾が故郷へ文頼む
旅一座巡業終えて鳥帰る
待ちぼうけ夫の任地や鳥帰る
埼玉県      小玉拙郎
紅灯の地を眼下にし鳥帰る
鳥帰り湖岸はもとの殺風景
帰る鳥雲居を行くはもう見えず
神奈川県      原川 泉水
鳥帰る不安と希望胸に秘め
故郷の香知ってか途を鳥帰る
鳥帰る今宵の宿はありなむや
清気吸ひ夢共にし鳥帰る
鳥帰る惑はず羽ばたけ幾千里
京都府      村田高久
鳥帰るあの日の町も通り越し
赤鉛筆握りて絶叫鳥帰る
クレーンの動きの先や鳥帰る
鳥帰る昨日騒ぎし池残し
鳥帰る鉛筆の芯折れる時
東京都      中田ちこう
風神の駆ける天空鳥帰る
ひとひらの雲をとどめて鳥帰る
群青の響く学び舎鳥帰る
東京都      茜崎楓歌
引く鳥や青春不完全燃焼
子らの声見捨てるやうに小鳥引く
鳥帰る目にゆふぐれを滲ませて
ゆふぐれに引く鳥はみなくろぐろと
鳥帰る眼鏡は寝顔みつめをり
ブラジル      林とみ代
受入れぬ国は避けよと鳥帰る
しんがりを行くは老いたる鳥帰る
黒潮の寄する紀ノ國鳥帰る
祖先眠る里を偲びて鳥帰る
鳥帰る津波流せし古巣跡
石川県      松田文女
鳥帰る猫は大きく伸びをする
鳥帰る夕焼け空はより赤く
鳥帰る三角に空切り裂いて
鳥帰る空まで響く子等の声
鳥帰る泉は広くなりにけり
ブラジル      玉田千代美
鳥帰る夕焼け雲に踏み込んで
鳥帰る我は老い行く杖を抱く
鳥帰る故郷は何処かどの国か
山梨県      重兵衛
カリオンの音澄みとおり鳥帰る
鳥帰る空に境があるやうに
乳母車長き列なし鳥帰る
教会の壁のイコンや鳥帰る
列長き野辺の送りや鳥帰る
富山県      岡野満
鳥帰る祭りの後の静けさよ
旅立ちの気配も見せず鳥帰る
今朝よりは静もる池や鳥帰る
山あいに静けさ残し鳥帰る
村の空ひと回りして鳥帰る
福岡県      西山勝男
鳥帰る棹となりゆく空深し
降臨の嶺をそびらに鳥帰る
鳥帰る軍艦島を方にして
鳥帰る魚藍観音遥影に
殉教の島を過ぎりて鳥帰る
愛媛県      砂山恵子
古びたる化粧ポーチや鳥帰る
鳥帰り手元にラーゲリ記録集
チョモランマ頂上越えて鳥帰る
ロケ班のカチンコの音鳥帰る
窓を向く待合ベンチ鳥帰る
愛知県      川俣周二
高層の南の空を鳥帰る
鳥帰る街で働く子は元気
鳥は北へ舟は南へ鳥帰る
出稼ぎの老夫のごとく鳥帰る
釣糸を垂らす彼方を鳥帰る
栃木県      長浜 良
産土に東南の風鳥帰る
鳥帰る坂東太郎の中空に
鳥帰る山河輝きいたりけり
火葬場に煙ひとすじ鳥帰る
東京都      少聞
あおぞらの青届かずや鳥帰る
公園の像皆裸足鳥帰る
鳥帰る表裏なき日章旗
故郷はいつも青空鳥帰る
軍艦は巨なる揺りかご鳥帰る
大阪府      椋本望生
鳥帰る衛門三郎追ふやうに
鳥帰る仮子転がす身の上を
とぐろ巻くホースの水や鳥帰る
弓形の日本を斜に鳥帰る
夢捨てて五右衛門風呂へ鳥帰る
岡山県      海苔徹
大木に赤き実残し鳥帰る
大木の緑(あを)の実残し鳥帰る
埼玉県      哲庵
鳥帰る笑ひ始めし山の上
鳥帰る蕉翁像を下に見て
白鷺の天守の上を鳥帰る
鳥帰るスカイツリーを斜交いに
鳥帰る金の鯱かすめつつ
東京都      岩川容子
カギや列ときには乱れ鳥帰る
故郷に祖の墓なし鳥雲に
鳥帰る数多いのちのあふれ出し
鳥帰るクラーク像の手の彼方
埼玉県      守田修治
雨止んで逆さ富士出て鳥帰る
鳥帰る暗い艀が沖に出る
鳥帰る汽笛が啼いて置き手紙
眼下には外野ノックか鳥帰る
砂時計狂うことなき帰る鳥
岐阜県      ときめき人
鳥帰る北へ北へとへの字かな
東京都      からす
諦めて 明日に向けて 鳥帰る
反省も 次の日向けて 鳥帰る
鳥帰る かぞくのもとへ ゆうぐれに
今日の日を 思い出しつつ 鳥帰る
踏みしめて 羽ばたける日を 鳥帰る
千葉県      横井隆和
・鳥帰る湖面に静寂の村灯り
・鳴く一羽佇む湖畔や鳥帰る
・一列に波打つ羽音や鳥帰る
北海道      飯沼勇一
「帰らぬ」を残し千羽の鳥帰る
牛たちの見上ぐ蒼空鳥帰る
鳥帰る鳥守りの役引退す
湖蹴って未来へますぐ鳥帰る
凹凸の大地真白を鳥帰る
千葉県      大隅隼人
鳥帰る終の棲家の在り足れば
ふるさとの海の匂ひや鳥帰る
千葉県      山田香津子
房総の海面のひかり鳥帰る
おちこちにソーラーパネル鳥帰る
上総には高き山なし鳥帰る
神奈川県      石鎚 優
散りぎはの白極まるや鳥帰る
下校児の小さき背中鳥帰る
大仏の笑み静かなり鳥帰る
帰りなむいざ吾もまた鳥帰る
茅葺の鴫立庵や鳥帰る
東京都      蘭丸
良日に力石触れ鳥帰る
翻訳に手こずる手紙鳥帰る
千葉県      みやこまる
後ろ髪引かれもせずに鳥帰る
しっかりと夢から覚めて鳥帰る
廃校の窓震わせて鳥帰る
福島県      いらくさ
鳥帰る或は光年飛び越えて
引き鳥や歯医者通いをしている間
鳥帰る花咲く島は鬼のもの
小鳥帰るや彼の森も変わらぬ陽
鳥引いて柑橘類に皺が寄る
東京都      武蔵野 次郎
学び舎の つぼみふくらみ 鳥帰る
鳥帰る 伝書鳩かと 悟る日々
繚乱に 旅立ち惜しみ 鳥帰る
咲き誇る 野山を飾り 鳥帰る
千葉県      悠理
鳥帰る猛き地層の匂い連れ
星の名の列車眼下に鳥帰る
存外に長き列島鳥帰る
東京都      笹木弘
忖度の文字を躍らせ鳥帰る
鳥帰る北へ伸びゆく送電線
墨東の空を広くし鳥帰る
生国に齢増やして鳥帰る
兵庫県      山崎衣玖
開花の報広がる地より鳥帰る
井戸端の伸びたる夕や鳥帰る
ドロップス溶くる夕焼や鳥帰る
鳥帰る空や松葉降る公園
五年後の人文字見むと鳥帰る
東京都      田村奏天
引鳥の尾のなよよかに朝日さす
少年漫画破れ鳥帰る声
崩し字のaの渦巻き鳥帰る
洋館の二階の窓や鳥帰る
鳥帰る波は街々結びつつ
神奈川県      佐々木 僥祉
漕艇の一人下るや鳥帰る
神奈川県      髙梨裕
飛び立てば遠雲遥か鳥帰る
しるべなき空を海をも鳥帰る
生あらば真実一路鳥帰る
鳥帰る山河に夕日残りけり
北海の明かり千里を鳥帰る
京都府      中村万年青
故郷の仲間の元へ鳥帰る
追風の津軽海峡鶴帰る
国境ひらりと越えて鳥帰る