俳句庵

11月『帰り花』全応募作品

(敬称略)

岐阜県     ときめき人
帰り花傀儡師の糸光りけり
富山県     岡野 満
嬉々として青葉の中の帰り花 
帰り花庭のひと隅照らしけり
帰り花見つけて今日の嬉しさよ
兵庫県     山崎ぐずみ
帰り花買はず仕舞ひの宝くじ 
帰り花ガラガラポンの赤い玉
帰り花ダウ平均値頭うち
帰り花ただいまだけを愛づるべし
福島県     いらくさ
染屋の庭のどの花が帰り花 
様々の小さき地形帰り花
計画の看板古るび帰り花
廃屋の甘やかすぎて帰り花
横文字の花もまとめて帰り花
群馬県     冷林
帰り花お呼びじゃないぜせっかちめ 
病床の母へのたより帰り花
神奈川県     重兵衛
あの笑窪昔と同じ帰り花 
あの顔とあの笑い方帰り花
老妻の真紅のマニュキュア帰り花
老画家の描く湯浴み図帰り花
ドガ描く湯浴みの女帰り花
大阪府     椋本望生
子の部屋はかの日のままに帰り咲く 
返り花ヒッチハイクのできぬ世に
仮の世にひそと咲きます忘れ花
帰り花奇しき話に咲きにけり
福岡県     西山 勝男
寂として梅の一輪返り花 
帰り花日の斑まぶしき爆心地
返り花そのー輪を栞とす
晩学の吾にひとひら帰り花
老いてなほ初心いまだに返り花
埼玉県     高島三郎
帰り花 居を去る吾の 佇まい
千葉県     土井探花
帰り花いつもと違ふ坂に星
愛媛県     アリマノミコ
突然の別れも慣れて帰り花 
勘違いふりして電話帰り花
埼玉県     守田 修治
帰り花おみくじひいて吉と出る 
仏事ありこれは彼だと帰り花
臍曲がり兄七回忌の帰り花
根津谷中居酒屋さがす帰り花
ゴッホ展出づるやさっぱり帰り花
千葉県     山田 香津子
海を恋ふ真砂女の句碑や帰り花 
誰を待つのかいといけな帰り花
あじさいのかぐはしに咲く帰り花
屋根葺きの昼の休息帰り花
我を待つ木瓜ほほえみの帰り花
埼玉県     こさめ
おかえりと 頭を垂れる 帰り花 
帰り花 すまし顔して 立っている
霧深み 帰り花かと 赤椛
帰り花 冴える寒空 良く香る
あの人に どこか似ている 帰り花
千葉県     藤原 純夫
帰り花妻の言葉に重なりて 
帰り花何か言いたげ我をみる
刑場に人去りて咲く帰り花
墓地はずれ地蔵微笑む帰り花
雑踏に気づく人なし帰り花
三重県     平谷 富之
散歩道 一際は目立つ 帰り花
長野県     ももみ
部屋に吊る民芸の毬かへり花 
中古車の窓の反射や帰り花
東京都     住澤 義英
帰り花 見あげた空に なに思う 
なぜ今か 通い細道 帰り花
大丈夫 今日も生き抜く 帰り花
急ぎ足 声を掛けられ 帰り花
帰り花 終わりし年に 振り返る
岡山県     岸野 洋介
通り過ぎふと引き返す帰り花 
茶のみ友杖さす先に帰り花
二輪だけ寄り添う木瓜の帰り花
日溜りのここがエデンと帰り花
ときめきは彼の日のままに帰り花
愛知県     斉藤 浩美
自分史に恋の脚色帰り花 
帰り花乳首をさがす嬰の口
忘れ花煙を吐かぬ陸蒸気
帰り花ここは芭蕉の生誕地
帰り花そこから上が空である
埼玉県     森 正徳
透き通る 白い息切れ 桜揺れ
千葉県     横井 隆和
返り花一輪挿しのナース室 
躊躇うてやがて手にあり返り花
病む床の長きを知るや返り花 
東京都     岩川 容子
うたかたの日々惜しまるる返り花 
舞い散る葉行く手に白き返り花
後戻り出来ぬ人生返り花
忍ぶれど色にでにけり返り花
東京都     まどん
約束を夢の祖母とす帰り花
岡山県     渡辺 牛二
城跡の高きに二つ帰り花 
帰り花影なきほどの薄日中
おしやべりの人には見えず帰り花
さりげなき事を良しとし帰り花
帰り花小さき二葉のその先に
山口県     ひろ子
樹齢のび永遠の命や帰り花 
禅寺の梅なつかしや帰り花
愛知県     古賀 敦子
帰り咲く杜若の色の濃かりけり 
切り岸に傾れ山吹帰り咲く
帰り咲く八重山吹の二三輪
蒲公英や山の日向に帰り咲く
帰り花尼僧とかわす遠会釈
千葉県     ほうりゅう児
人混みを 嫌いてひとつ 帰り花 
秋晴れの 白髪見やる 返り花
秋に咲く 桜愛しや 可憐なり
君と我 晩年なれど 帰り花
ふと見上げ 寄り添う二輪 笑みこぼれ
ブラジル     玉田 千代美
静かなる庭を覗けば帰り花 
帰り花誰を待つやら庭隅で
ブラジル     林 とみ代
病癒えし友と再会帰り花 
異国に咲く大和なでしこ帰り花
老いて尚夢見る余生帰り花
貧しくも健気に咲いて帰り花
遠慮するも世過ぎの手だて帰り花
東京都     蘭丸
石階に呼びあへるほど帰り花
大阪府     古田 秀雄
舞鶴港傷痍を乗せて帰り花
大阪府     古田 博子
生家跡の空地に咲くや帰り花
東京都     笹木 弘
海見える丘に風あり帰り花 
頑なに操を守り返り花
陽だまりに三個かたまる帰り花
良く見ればまだまだありし帰り花
追分の道灯すごと帰り花
埼玉県     琴吹痴庵
渓流の元は一滴帰り花 
この先は入山禁止帰り花
埼玉県     哲庵
肉弾を志願した日や帰り花 
停車場に万歳の声帰り花
二年後に届く訃報や帰り花 
九段坂ゆるり上れば帰り花
靖国の標本木に帰り花
岡山県     土屋 徹三
山間の近所付き合い帰り花 
陽だまりに笑い泣きする帰り花
道迷う辻に佇む帰り花
野仏に誰が手向けし帰り花
帰り花墓前賑わし散りにけり
兵庫県     中田 修
電力計動かぬ家に帰り花 
芭蕉句碑を巡り疲れて帰り花
帰り花クラーク博士の指の先
帰り花舞台の袖で待つ女
表札の無き家に咲く帰り花
岐阜県     ―
狂い咲き花も私も疲労気味 
桜花秋の祭りも花を添え
返り花藤棚狭き門となる
返り花妹招き帰り人
可憐さを秋風匂わす返り花
栃木県     長浜 良
警策に打たれし朝や帰り花 
早暁の淡き二色帰り花
杣の家の祝歌朗々帰り花
東京都     中田ちこう
薬医門覗くさくらの帰り花
三重県     後藤 允孝
人知れず歌碑に寄り添ふ帰り花 
墓碑銘は黒く苔むし帰り花
帰り花古書の栞となりにけり
ひつそりと空家の庭の帰り花
山郷は抜けゐる空や帰り花
神奈川県     矢神 輝昭
恍惚の闇に朱を見る帰り花
帰り花いつか来た道妹のなく
二日酔い二度寝の夢に帰り花
同窓の老ゆらくの恋帰り花
浦島のあだ花なるや帰り花
埼玉県     櫻井 玄次郎
結願の袈裟納むるや帰り花
神奈川県     成田あつ子
鈍色の空に灯のごと帰り花 
これよりは入れぬ鉄扉帰り花
再会の互いの老いや帰り花
遠慮して小さく咲きたり帰り花
千葉県     小田中 準一
廃屋の庭に一輪帰り花 
亡き母の化身と思ふ帰り花
路地裏の光の道に帰り花
凛と咲く空に一輪帰り花
忘られぬ人胸に咲く帰り花
神奈川県     原川 泉水
陽だまりに帰り花観る山の裾 
はと見上げ心温む帰り花
帰り花今日一日の労忘れ
帰り花天に授かるギフトかな
帰り花立去り難くたちさりぬ
静岡県     柳谷 益弘
神さまの寵愛受けし帰り花 
遠慮がち楚々と咲きたる帰り花
埼玉県     占部 耕三
訪ねたる 友の庭先 帰り花 
忙しさ 忘れさせたる 帰り花
膝に猫 乗るタンポポの 帰り花
たどり着く 約束の地に 帰り花
迷いごと 振り払いたし 帰り花
沖縄県     輝 龍明
帰り花賑わう街を後にして 
帰り花梢の上を跳ねにけり
帰り花白き花びら空に揺れ
人ならば個性と言おう帰り花
帰り花お調子者のふらふらと
東京都     まだら
帰り花ひとり眺める今年かな
東京都     石川 昇
人生の出会いにも似て帰り花 
帰り花人の心はすぐ変わる
東京都     右田 俊郎
帰り花学校帰りの秘密基地 
叱られて居残りとなる帰り花
帰り花子ら集まって悪だくみ
辛きこと多きがための帰り花
奇をてらふことにはあらず帰り花
埼玉県     彩楓(さいふう)
返り花も一度逢ひたき人二人 
旧姓に呼び止められて返り花
ひそひそと内緒の話返り花
後何度逢へるのでせう返り花
返り花軌道修正する覚悟
愛知県     寺尾 啓一
咲きだせば戻りもできず帰り花 
旬のない胡瓜を食ふや帰り花
人類の恋は何時でも狂い花
狂い花咲かせ悦ぶ人の業
旬と句は似ているよほで返り花
神奈川県     長島 マミコ
半襟の白粉あとや帰り花
北海道     栃木 渡
赤きまま頭の垂る帰り花
種子ひとつつかぬを承知狂い咲き
忘れ花尽きるも早し夕まづめ
千葉県     クラレこじろう
小春日に 桃花見つけ 父想う 
頑張れよ 我も負けぬと 帰り花
良き此の日 見つけた偶然 帰り花
桜花 包み薫る 金木犀
千葉県     中原 政人
桜木の返り咲き見す二つ三つ 
枝先にピンク見するや返り花
東京都     枯紫
帰り花 揺らすや風の 嫉妬心 
枡酒が 欲張る妻と 帰り花
帰り花 胸算用が 下心
東京都     紫風
ケータイを 切って見つめる 帰り花 
帰り花 鈍色空を より低く
面会の 父との話題 帰り花
東京都     紫雨
帰り花 卒寿の祖父を 呼びに行く 
帰り花 写メの画角の 定まりぬ
帰り花 時雨が香り 奪い去る
奈良県     平松洋子
眼鏡かけ今日は過去まで帰り花 
会いたいの父母又見たい帰り花
又来てね孫の成績帰り花
岡山県     名木田 純子
帰り花風を透かしてをりにけり 
帰り花十の視線にこはれさう
東京都     浮いたか瓢箪
観劇の 帰り花買う 大年増 
帰り花 枯れ木見渡し 自慢顔
帰り花 見上げて年増 顔を染め 
帰り花 実をつけずして 散るさだめ
木枯しも そっと撫でゆく 帰り花
大阪府     津田 明美
大局に照らせば浮世帰り花 
化野の道の果てかや帰り花
佳きことのありそな予感帰り花
こころなき風もとどまる帰り花
登り来る人を迎えて帰り花
山形県     ゆずまる
開店へエールを送る帰り花 
夭折の息子よ何処帰り花
集まりし野点の人へ帰り花
天国の母の笑顔や帰り花
廃墟ビル往時を偲ぶ帰り花
山口県     山縣 敏夫
千年の古都に現る帰り花 
忘却の彼方の人の狂い咲き
温暖化お前の所為だ帰り花
一瞬の闇に漂う帰り花
美しく悲しくもある帰り花
岐阜県     ―
信号で 止まりて見える 帰り花 
愛犬と 散歩がてらの 帰り花
犬が嗅ぐ いつもの道に 帰り花
東京都     伊東 由紀子
昔ここに秘密基地あり帰り花 
産土の社は小さし帰り花
山口県     草如
葉にもまだ緑残れり帰り花 
来て見よと誘われて野の狂い花
廃校の錆びた鉄棒忘れ花
故郷を捨てきれずいる帰り花
軒低き峡のたつきや帰り花
三重県     阪倉 弘一
眞正面から見て帰り花楽しめり 
ゆるやかにあなたを愛し帰り花
帰り花詩へのあこがれ燃えよる
早速にスマホにおさむ帰り花
楚楚と咲く仰ぎて見たる帰り花
滋賀県     幸湖
帰り花老木に色戻りけり 
帰り花慣るる足音近づきぬ
今一度諦めきれず帰り花
帰り花誰も気付かぬ無人駅
帰り花気付く人なき空き家かな
神奈川県     猪狩 千次郎
釣橋や右岸左岸の帰り花 
待つひとのゐるらしや手に帰り花
石棺に溜る雨水帰り花
経文を回す水車や帰り花
帰り花世を諦むるろばの顔
滋賀県     村田 紀子
風の音モズも戸惑う帰り花 
帰り花返事が出来ぬ風が吹く
蔦からむ空き家に同じ帰り花
帰り花仰ぐ人あり赤い靴
友帰る垣根に枝あり帰り花
岐阜県     蛙田 環
哀れなり誰が折り捨てし帰り花 
こぞことし同じ小梢に帰り花
七つ八つ園児の声や帰り花
誰が植えし荒れたる庭の帰り花
帰り花陽かたむきぬ過疎の町
静岡県     城内 幸江
帰り花かまどで炊いた飯の宿 
黒板に消し忘れあり帰り花
鋸の音谷響く帰り花
帰り花遠くで母を呼ぶ子供
隠れ宿ひとりで泊まり帰り花
神奈川県     塚本 治彦
神々の遊び心や帰り花 
帰り花匂もほんの二輪ほど
夫婦神祀る社や帰り花
旧友に遇ひたるごとし帰り花
帰り花天使の白き羽根のごと
大阪府     ―
帰り花 夏の想い出 いま一度 
返り咲き 八十路の身には 厳しけり
神奈川県     守安 雄介
帰り花空の青さを纏いけり 
帰り花双葉の街に戻りけり
花弁にやつれ漂う帰り花
帰り花紀香の鬢に白髪置く
放射能浴びたる婆の帰り花
千葉県     隼人
湯煙のたなびく鄙や帰り花 
夕暮るる頬紅き君や帰り花
山門に匂ひほのかや帰り花
寺町の苔むす塔や帰り花
手の平にはらりひとひら帰り花
東京都     岩崎 美範
薄日さす地震の岬の帰り花 
青春を過せし街や帰り花
散りゆかば栞に入れむ帰り花
激戦の島に慰霊の帰り花
夭折の姉の御霊か帰り花
愛知県     渡辺 佳幸
五月病乗り越えひとり帰り花
兵庫県     松下 弘美
帰り花出過ぎぬ色を失はず 
あの人を決して忘れぬ帰り花
帰り花空へ微笑む徹夜明け
一年に一度は帰れ帰り花
何度でも戻っておいで帰り花
茨城県     あまち てる
帰り花 男やもめの 忙しさ
東京都     稲垣 周
ひとり咲き冬の見張りか帰り花 
早熟の帰り花告ぐ温かさ
帰り花探して長い散歩道
枝先の帰り花にみる希みかな
遠くとも春予告する帰り花
愛知県     佐藤 三郎
葉桜や日差しの枝に帰り花 
帰り花残暑つづいて二度花見
人生や海山千里帰り花
杖ついて小春日和や帰り花
長崎県     内野 悠
みちのくの海に絶やさず帰り花 
帰り花サーカス村の匂ひ立つ
閃きを授かるごとく帰り花
爆心地の魂によりそふ帰り花
妣はもう人に戻れぬ帰り花
神奈川県     佐藤 博一
幼児の見つけし手柄帰り花
老いてこそ思ふ青春帰り花
残照のゆるき坂道帰り花
帰り花効くやも知れぬ薬飲み
行き過ぎて振り返り見る帰り花
東京都     池本一軒
同窓の喜寿の集ふや帰り花 
帰り花深く生きるといふことを 
遠き日の原書繙く帰り花
帰り花何か大きな忘れ物 
帰り花父母の遺影のいつも笑む
神奈川県     井手浩堂
母残し急ぐ家路や帰り花 
葬送の庭に一輪帰り花
海辺まで下るこの道帰り花
吟行の人みな寄れり帰り花
銭湯の無用の煙突帰り花
東京都     塩田 芳孝
古寺や帰り花咲く雨の午後 
帰り花見る国東の磨崖仏
急坂を上がりソウルの帰り花
埼玉県     采野 功季
帰り花 去りゆくことは 十承知 
紅き日に 白く色づく 帰り花
千葉県     伊藤 博康
さよならと手を振る先に帰り花 
角曲がり思いもよらず帰り花
三重県     遊眠
帰り花何ごともなく百か日 
帰り花母の遺品の仏和辞書
遺作展見て乃木坂の帰り花
そこだけは小さな宇宙帰り花
帰り花船笛遠き異人墓地
宮城県     福田 良光
モノクロの世界にカラー帰り花 
三四郎池の畔に帰り花
帰り花西方浄土の贈り物
悲しくも雨に濡れたる帰り花
帰り花あの雰囲気は躑躅かな
熊本県     貝田 ひでを
帰り花母の墓への径閑か 
ウオーキングの記録更新返り花
暮れ方の野を燈すかに帰り花
この頃の気違ひ陽気返り花
東京都     大槻 実
五十路なり 同窓会の 帰り花 
ソプラノの 音が空抜け 帰り花
年老いた 親を見送る 帰り花
滋賀県     中島光汰朗
みづうみに傾く並木帰り花 
業平の墓訪ぬれば帰り花
無住寺の庭に水音帰り花
表札は男の名前帰り花
信長に焼かれし寺や帰り花
埼玉県     鈴木 とくえ
帰り花 風に似合わぬ 香り撒き 
帰り花 一度に済まぬ 洗濯機
思い切り 剪定せんや 帰り花
二度咲いて 喝采浴びや 帰り花
手に届く 幸せ見ぬや 帰り花
埼玉県     岸 保宏
陽が返し少し騒がし帰り花 
休耕田主役ならむと帰り花
墓の道客足止める帰り花
サンパウロ     西山ひろ子
ゆったりとはたまた慌て帰り咲く 
一早く朝日捉へて返り花
園児等の歌声桃の狂ひ咲く
幼き日の孫の微笑み帰り花
笑窪ほどの二つの桃の帰り花
神奈川県     須山
被災地の町に見つけた帰り花 
路地裏のバーに見つけた帰り花
兵庫県     岸野 孝彦
君の名は三葉と瀧の帰り花 
浦島に似たるがごとき帰り花
帰らざる風に吹かれて帰り花
若き日の本の栞や帰り花
さよならの言葉呑み込む帰り花
東京都     梶浦 公靖
束の間の父の元気や帰り花 
何事か必死な様有り帰り花
吐く息の白き向こうに帰り花
帰り花翌日眺める恐ろしさ
お前もか捻くれ者の帰り花
長崎県     西 史紀
訣別の意志を固めて帰り花 
目瞑れば昭和はそこに帰り花
認知症とて母は母帰り花
棺桶の蓋に寄せ書き帰り花
めしひたる背にギター負ひ帰り花
東京都     小野 史
さすらいの 恋を楽しむ 帰り花 
厳格な 父が摘み取る 帰り花
帰り花 見つけた母の 今日の幸
いっときの 儚き命 帰り花
帰り花 遠きパパへと 贈る子よ
大阪府     藍青
白無垢に 母がほほ笑む 帰り花
滋賀県     上原 秀雄
帰り花 今日の手土産 ノリでうけ 
孫連れて 家族が増えし 帰り花
帰り花 用事も告げず 居なくなり
帰り花 ほのかに匂う 酸い甘さ
正夢か 帰り花なら もろ手上げ
愛知県     家中者
帰り花 大器晩成 為る人か 
台風渦 果敢無い命 帰り花
風景が 何時もと違う 帰り花
似合うのは 帰り花かな 絵になりて
期待する 帰り花こそ 待ち遠し
東京都     内藤羊皐
帰り花数学教師は猫背にて 
帰り花端山の里に月匂ふ 
帰り花姉の齢を越えにけり
教会に弔ひあるや帰り花
水の輪の底を匂ふや帰り花
宮城県     林田 正光
昨日今日二日限りの帰り花 
人知れず咲いて散りゆく帰り花
陽だまりに二輪寄り添ふ帰り花
村八分視線の下の忘れ花
廃校のご免なさいと忘れ花
大分県     田中 祐輔
遠い轍 遊び疲れた 帰り花 
帰り花 その名を取りて 子に与ふ
帰り花 光の線を すっと割く
宮城県     木立慈雨
窓際の残日数え帰り花 
適齢期過ぎた花かなブルータス
帰り花初雪一つ受け入れる
帰り花背に刃が見え隠れ
日溜まりに褒められました帰り花
兵庫県     紫 桔梗
来し方は人それぞれに帰り花 
山門の脇の二本に帰り花
帰り花引くに引かれず意地とおす
今更に咲ひてどうなる帰り花
空透かすところどころに帰り花
愛知県     とりくん
川沿いの紅葉の陰に帰り花 
君のこと帰り花見て思い出す
帰り花気づかれなきよにそっと散る
小春日に歩いて気づく帰り花
帰り花メジロにそっと教えられ
愛知県     幅 茂
帰り花都大路に咲きにけり 
見上げれば微かに開く帰り花
憲法を守れと開く返り花
ラニーニャを知るか知らずか帰り花
火だるまの五輪予算や忘れ花
神奈川県     河野 肇
母を待つ園児らの群帰り花 
帰り花窓なき家のふえしこと
介護士の夜勤明けゆく帰り花
帰り花隷書のやうな漢来る
にんげんの天敵は何帰り花
東京都     ふで
ひとりぼっち よいときもあり 帰り花 
戻りたき 日も我にあり 帰り花
岡山県     岩中 幹夫
青春に 限界はなし 帰り花
宮崎県     荘子 隆
帰り花 冬の木立に ひっそりと 
咲く季節(とき)を間違えたのか 帰り花
樹に咲いて これも個性と 帰り花
帰り花 咲いて短し 春遠し
山陰の 木立に咲いて 帰り花
埼玉県     鈴木 哲也
饒舌な 友が来たりて 帰り花 
帰り花 一輪土産に 妻の元
帰り花 夕餉の土産に 写メを撮り
天変の 地異と言われず 帰り花
帰り花 いと密やかに 消え入れり
神奈川県     パラレル
元女優暮らす邸や帰り花 
イニシャルを彫られし巨木帰り花
参道を外れた路地に帰り花
見つけた子誰にも言えぬ帰り花
制服の歓声に揺れ帰り花
埼玉県     獅子谷 雪
足を止め時を忘れし帰り花 
帰り花少年の嘘包みたり
愛しさを指先に見る帰り花
青の恋染む心には帰り花
時間だけ孤独に背負う帰り花
東京都     かつこ
友訪ね和みのお茶や帰り花
埼玉県     儘田 浩
うつむきて 遅き家路や 金木犀
神奈川県     川島 欣也
狂い花処世のすべを心得ず 
帰り花まいる人なき忠魂碑
忘れ物取りに帰るや帰り花
反抗期相手にされず狂い咲く
目立ち屋のひとり二度咲く夕間暮れ
岐阜県     金子加行
独り咲く男に似たる帰り花 
剪定を忘るる街路帰り花
生き抜くや都市の割れ目の帰り花
あすよりの独りの家や帰り花
帰り花ささやかながら披露宴
東京都     淵田芥門
かへり花老蝶ながくとゞまりぬ
東京都     山野柘榴子
吹き付けて苞なほ減らず帰り花 
帰り花老木の肌やわらかし
ゆるゆるとまさかまさかの帰り花
帰り花これより関東平野かな
老木にこぼれて二三帰り花
千葉県     柊二
野仏にちひさき空の帰り花
長野県     木原 登
古都奈良の寺を巡れば帰り花 
忘れ花逝きて帰らぬ友増やす
湯のごとき哀しみのあり返り花
幸せは小さきほどよし帰り花
返り花老いても子には従はず
滋賀県     了庵
ひとしきり鳥の鳴く声帰り花 
湖の風ふふみて八重の帰り花
帰り花湖近ければ湖の色
行合の雲に紛れて帰り花
帰り花散り徘徊の父もどる
愛知県     岩田 勇
老木の伐られるといふ帰り花 
スーパーの話立ち消え帰り花
久々に参る師の墓帰り花
よみがえる高橋和巳帰り花
帰り花静かに死ぬはむずかしき
神奈川県     白銀
黄金の 風吹く闇夜の  帰り花 
一睡の  帰り花咲く  極楽土
帰り花  散りて積もるは 寵愛
育ちざかり 帰り花の実  今もなお
花満開  牡丹灯籠    帰り花
京都府     真本 笙
なるべくしなつて二夜の帰り花 
帰り花懐いた風の後を追い
新潟県     近藤 博
帰り花咲きて花期とも思はせる 
帰り花きらり遊歩の足を止め
淋しげにぼつんと咲きし帰り花
花期ならず咲きて目を引く帰り花
淡みどり葉すら返るや帰り花
宮城県     石川 初子
帰り花ひ孫の名前忘れたり 
母も見て曾孫も見ている帰り花
神奈川県     髙梨 裕
手桶置き戻る参道帰り花
渡し舟戻りし岸の帰り花
木の根坂先は見えずに帰り花
嫁ぎしや庭に一輪帰り花
薬師寺や仁王の目にも帰り花
京都府     中村 万年青
寂し気に薄日に咲くや忘れ花
風に散り花びらヒララ帰り花
桜木の遠慮がちに狂ひ咲き
東京都     ゆり
返り花児女の手平の温きかな
返り黄花二の膳如の嬉しかな
返り花廃園砂場淋しけり