俳句庵

季題 11月「小春」

  • 俎板に小春の水のやわらかき
  • 東京都     岩川 容子 様
  • 能面の口元ゆるむ小春かな
  • 神奈川県     佐藤 博一 様
  • 歩の遅き夫に寄り添う小春かな
  • 大阪府     津田 明美 様
  • 隣り合う寺と教会島小春
  • 福岡県     西山 勝男 様
選者詠
  • 小春日や棚田にあそぶ海の鳥
  • 安立 公彦

安立公先生コメント

「小春」は辞書にもある通り、陰暦十月の異称です。小春日は立冬を過ぎてからの、暖かい晴れた日を指します。日暮れは早いですが、日中の日ざしは文字通り春のような温かさです。〈海の音一日遠き小春かな 暁台〉のような名句もあります。
 優秀賞の岩川さんの句。厨での作です。俎板に注ぐのは水道の水ですが、「小春の水」とあると、情景が一変し、青空の下で手に受ける湧水のようなイメージを受けます。それは「やわらかき」で場面を一層悠然とさせます。表現の整った句です。
 佐藤さんの句。能面には女、老人ほか演出によりさまざまな面があります。その能面の、「口元ゆるむ」が発見です。実際には口元に変化はありませんが、それは「無」から「有」を形作る思いを、句を見る人に与える表現となっています。
 津田さんの句。この「夫」は、多分体調を崩されているのでしょう。歩いていると、いつの間にか遅れて歩む「夫」。作者はその「夫」に優しく寄り添い、ともにゆっくりと歩くのです。「歩の遅き」「夫に寄り添う」思いの深い作品です。
 西山さんの句。多分長崎の五島列島のような島の情景かと思います。「隣り合う寺と教会」が全てを物語っています。
 今回も佳句が多いでした。選に楽しい苦労をしました。三句。〈病む妻の今日よく笑ふ小春かな 岩田勇〉。〈どこからも天守の見ゆる小春かな 守田修治〉(原句は「見えて」でしたが「見ゆる」が良いでしょう)。〈小春日やふと広縁に妣のあり 矢神輝昭〉。それぞれ句柄は異なりますが、いい句です。
 ところで、俳句に用いる言葉ですが、(1)漢字は常用漢字を使います。(2)仮名は私の所属する「春燈」では旧仮名を用いますが、当山本海苔店俳句会に於いては、新仮名、旧仮名何れでもよろしいです。但し、作品の中では新仮名、旧仮名の併用は避けて下さい。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。