俳句庵

10月『木の実』全応募作品

(敬称略)

埼玉県     哲庵
武蔵野を迷い歩けば木の実降る
青春の思い出ベンチ木の実降る
背比べばかりしたがる木の実かな
心棒の斜めになりし木の実独楽
木の実にて算術習ふ山の子は
大阪府     太田 紀子
木の実持ち僧の説法聞いてをり
木の実一つ転がり出たりランドセル
木の実落ちギブスのなかのかゆさかな
東京都     安西 信之
ポケットは栗鼠のほつぺた木の実落つ
ドロップの空缶に鳴る木の実かな
ドロップの空缶せめて木の実とす
軒下の網に干るる木の実かな
不揃いの木の実いずれも粒揃い
栃木県     長浜 良
一陣の風の終りの木の実雨
泣きじゃくる子の握りたる木の実独楽
トラックの荷台に踊る木の実かな
愛知県     山歩
とんころと荘の屋根打つ木の実雨
丑三つの静寂を破る木の実かな
九十九折の木の実あまたの塩の道
ポケットを零れ落ちたる木の実かな
腰曲げて木の実を拾ふ背にまた
神奈川県     長瀬 正之
うたひとつなせぬ旅の夜木の実落つ
木の実落つ尺鯉の鰭ひとひねり
木の実戦争勃発す自習時間
川底に木の実集まる流れあり
千葉県     横井 隆和
つるっパゲ ベレーに隠す 木の実かな
半眼の 耳の遠くへ 木の実雨
神奈川県     佐々木 僥祉
雨上がり駆け出す子らの手に木の実
東京都     右田 俊郎
吹く風に木の実ぱらぱら降る夕べ
園児らは拾ふ木の実を競ひ合ふ
木の実落つふと目を覚ますひとりの夜
ポケットは木の実いっぱいふくらめり
拾ひたる木の実しっかと握りしめ
佐賀県     平吉 俊郁
児が入れし宝石箱の木の実かな
神奈川県     志村 宗明
セントラルパークの木の実ポケットに
人前に立つが苦手の木の実かな
教科書に隠れて回る木の実かな
降りしきる木の実を抜けて走りけり
物置の屋根騒がしき木の実かな
大阪府     横山 泰典
垢抜けて軽き都会の木の実かな
木の実落つ裏階段のハイヒール
埼玉県     ―
食卓に木の実置きつつひとりごつ
木の実独楽逆さに立ちしころ滑る
渦巻きに木の実ひとつの洗濯機
東京都     鈴木 直子
木の実落つ波紋連ねて入江まで
捨てらるるまでが命の木の実かな
揉めごとを消し去る夕べ木の実踏む
千葉県     出口 英子
木の実手に真紅に燃えて筆さそう
物言わず朽ちて木の実の哀れなり
木の実降る悲しむごとく一滴
音もなき池を覆いて木の実立つ
昼下がり木の実憩いて膝枕
東京都     蘭丸
九九知らぬ子等が分け合う木の実かな
木の実降る幾度も掴む虚空かな
黙りて子供負かすや木の実独楽
梯子掛け登る最中や木の実雨
北海道     飯沼 勇一
木の実降る縄文の血の騒ぎたる
その音に高低のあり木の実雨
ポケットに木の実独楽詰め友見舞ふ
経読みの息継ぎごとに木の実降る
独り寝を木の実時雨の訪ね来る
東京都     岩崎 美範
木の実降り妻の孤独の始まりぬ
大阪府     瀬戸 順治
折り鶴と木の実置かれて旅の卓
静岡県     柳谷 益弘
どんぐりで孫のよろこぶ首飾り
どんぐりのバランスの妙やじろべえ
手いっぱい小さき孫の木の実かな
細枝に紅くかがやくユスラウメ
金づちで手もと狂わせオニグルミ
大阪府     小島文香
補助輪のはずれて嬉し木の実降る
大人にも優しくなれる木の実かな
木の実入る小さなポッケ膨らんで
図工時に木の実ひと役かつてをり
木の実降る郷は今頃刈入れ時
東京都     大槻 実
ウオーキング 木の実を踏んで 秋を知る
小さな子 大きな木の実 にぎりしめ
木の実の名 ネットで調べる 秋の夜
セミの音が 聞こえなくなり 木の実落ち
木の実落ち 地球の資源に 思い馳せ
東京都     笹木 弘
仏足石の窪みに木の実落ち着けり
石段を大きく跳ねし木の実かな
露天湯の落ちて拾わる木の実かな
兄ちゃんのはやっぱり強い木の実独楽
木漏れ日を浴びて艶めく木の実かな
埼玉県     守田 修治
廃線の横川峠木の実降る
木の実雨ジーンズの尻に文庫本
寛永寺読経に和して木の実降る
拾われず眠りについた木の実かな
東京都     宗田 利一
山荒れて木の実しぐれの下山かな
宿題に木の実の城や三年生
園児等の競いて木の実拾うかな
ずっしりとセコイヤ杉の実巨大なり
園児等のポケット一杯木の実かな
京都府     ―
栗のいが色が変われば食べごろに
台風で届かぬ木の実手の中に
秋くれば銀杏拾い犬危険
ドングリを集める度に熊思う
東京都     岩川 容子
野仏の供物に混じる木の実かな
わんぱくに恋らしきもの木の実独楽
山里のバスを待つ間の木の実雨
山口県     山縣 敏夫
連れ合いと山道に聞く木の実雨
木の実降る昭和の谷はセピア色
山深し苫屋の屋根に木の実落つ
六十五迷路の門に木の実落つ
山門に犬がじゃれ合う木の実かな
岐阜県     ときめき人
木の実落つ異常気象の今日ぞ
東京都     蒼野蘭介
水面鳴る木の実時雨や遊歩道
すれ違ひ思ひだしけり木の実落つ
縁側に影長く引き木の実独楽
白皙の三四郎の指木の実独楽
人声の高き夕べや木の実降る
埼玉県     大野 美波
美しき子リスのために木の実落つ
木の実つき木々のやさしさあふれだす
木の実つき村の子供はうれしそう
木の実の赤そらの青
亡くなりしかかあのように木の実つく
東京都     岩崎 美範
嬰眠る右手に木の実握りしめ
岡山県     名木田 純子
木の実落つ音に来し方振り返り
掌に木の実の増せる光かな
木の実落つ森の高さの音として
大阪府     永田
量らずともさささでよろし実山椒
パンづくり胡桃割りのみ手伝へり
東京都     岩崎 美範
たらちねの母の寝息や木の実落つ
長野県     秀山
永代の時を静観木の実の母
朝散歩木の実拾いて残り香
神奈川県     佐藤 博一
少年の眼で拾ふ木の実かな
青森県     高松遊絲
木の実降る音立つるやう立てぬやう
木の実落つ拾って欲しい人が来る
葉をすべり枝にこっつん木の実落つ
神奈川県     川島 欣也
五線紙の木の実音符ドレミファソ
縄文のタイムカプセル木の実かな
艶やかな木の実が二つ老翁の手
今朝の雨木の実鋪道へ敷きにけり
引出の奥の木の実や子の宝
大阪府     津田 明美
木の実独楽井筒の恋に回りけり
木の実降る記憶の地図はこのあたり
抽斗に想い出一つ木の実独楽
神奈川県     守安 雄介
風籟を追いたる地籟木の実雨
妻の腹蹴りたる胎児アケビの実
空に舞う蛇の目の如きアルソミトラの実
森渡る風の後追う木の実雨
兵庫県     祥江
幼子の両手に溢れる木の実かな
リュックから木の実でてきた山登り
ままごとの木の実でお花買いに行く
一粒の木の実につまった命あり
思い出の木の実はここに残りけり
兵庫県     山地 美智子
よく回る祖父の手に成る木の実独楽
日当たりの窪地に溜まる木の実かな
木の実落つ目瞑るままの地蔵尊
ポケットの木の実に気づく夜の机
木の実降る音を聞くかに地蔵尊
富山県     岡野 満
園児らの木の実数える声高し
東京都     村上 ヤチ代
お手玉に詰めて軽やか木の実かな
東京都     加藤 慧
くぬぎの実 背伸びしながら 声かける
兵庫県     紫水
木の実降り池の波紋に揺らぐ月
ふるさとの庭の木の実や父の墓
神社への階段に降る木の実かな
木の実蹴る子どもの背には塾リュック
浅草のダンサー赤き木の実かな
愛知県     新美 達夫
ジャズが好きシャンソンが好き木の実落つ
秋だぞと囃せば落つる木の実かな
団栗を避けて歩幅の定まらず
子の飽きて木の実歩道に拾はれず
茨城県     小橋すなを
ひろがって消へゆく波紋木の実落つ
降りかかる星屑の音や木の実雨
木の実落つむりやりひらく子の拳
とびはねてやんちゃ坊主の木の実独楽
筆入れに仕舞ふ一粒子の木の実
神奈川県     佐藤 博一
眠る子の握り締めたる木の実かな
東京都     きょうやん
母の手に 一つの木の実 渡しけり
こんこんと トタンの屋根に 木の実ふる 
筆箱に 茶色の木の実 しまいけり
東京都     杉本 とらを
家族分貰ひて帰る木の実独楽
木の実踏む音に番犬吠えにけり
岐阜県     金子加行
ポケットに森の匂ひの木の実独楽
木の実落つ音に目覚める山の宿
木の実雨森に嵐を置ひてゆく
木の実雨こぼれを拾ふ無人駅
生きのびる岩の割れ目の木の実かな
長野県     木原 登
出し抜けに脳天を撃つ木の実かな
弟は今も五歳や木の実降る
老いてなほ親しきものに木の実あり
両手もて栗鼠の頬張る木の実かな
神奈川県     佐藤 博一
拾はれて明日をも知れぬ木の実かな
埼玉県     柏木 晃
木の実落つ森に独りの画学生
木の実落つ森に広がるわらべうた
木の実独楽芯は途軸に気脈あり
境内にかしわ手響き木の実落つ
山晴れて木の実豊かに日本猿
千葉県     伊藤 和幸
切株に暫し休むや木の実落つ
木の実降る翁の句碑にわが肩に
孫帰り畳に一つ木の実独楽
埼玉県     岸 保宏
子を寄せて木の実の独楽をまわしをり
列長く木の実拾ゑり芝居小屋
額ほど小さな庭に木の実降る
木の実落つ鳥居に当たりポコポコと
神奈川県     佐藤 博一
見つければ拾ひたくなる木の実かな
縄文人かくやと拾ふ木の実かな
埼玉県     井上 寿郎
抽斗に眠る木の実の過去未来
その時の木の実の硬さやはらかさ
彫像は戦国武将木の実独楽
秘湯への道なき道の木の実かな
東京都     長峯 雄平
ひれ伏して地球最期の木の実かな
新潟県     近藤 博
木の実落ち一つ落つれば百の落つ
落つるかと見るに降り落つ木の実かな
木の実降る音の高低リズミカル
しゃがみ込み木の実拾ふや山の路
宮城県     石川 長二
りす埋める木の実はやがて森になる
独楽のよう木の実を回す孫の顔
仏壇に木の実を編んで供えをし
宮城県     石川 初子
三匹の猿に化けたる木の実かな
北海道     江田三峰
北大の銀杏拾ふ人数多
竹竿や栗の実落つる音立てて
知事公館園児ら来る木の実降る
子等作る楊枝を刺して木の実独楽
落ちそうな木の実めがけてブーメラン
福岡県     紙田 幻草
木の実降る音か木の葉の降る音か
椎の実を拾ひつ登る仏道
団栗のころがってゐる囚徒墓
待ち人は来らず木の実零れけり
千葉県     高橋 三恵
木から木へ木の実啄む賑やかに
山口県     古伊万里
木漏れ日の銀杏拾うほおかぶり