俳句庵

5月『立夏』全応募作品

(敬称略)

日にあらた日々あらたなる夏来る
白雲が鉄塔撫でし立夏かな
新しいめがねおねだり夏来たる
人影を小さく立夏の昼下がり
腹ばいの朝礼台に夏が来る
夏に入る表面張力のコップかな
庭石に 思考の蟇や 夏来る
江ノ島の立夏を聞きし波の音
新築の 駅前交番  夏は来ぬ
堂々と立夏の湖に海賊船
中学の 下校の楽も 夏は来ぬ
真つ白な下着に着替へ立夏かな
夏来る 夕べの書架の 蔵書印
十五歳 立夏のリュック 過積載
夏立つや 風に摩耗の 摩崖仏
高校生 立夏のリュック 辞書二冊
夏立つや 名刹の屋根 反り極め
夏立ちぬ 甥の身長 ぐんぐんと
静けさといふ音を知る今朝の夏
入乱る抽斗の四季立夏かな
山の菜や笊より立夏今朝の膳
夏立ちて吾子とまどろむ昼下がり
昼の月湯客見下ろす立夏かな
特売のチラシ濡れをり夏に入る
半袖の母はきりりと夏来る
一面のコラム楽しや今朝の夏
鉄棒の温度で気づく立夏かな
新しき 恋の予感や 夏来る
他校の子チームに加わり夏来る
不夜城の 少女の衣服 立夏かな
夏立つや潮入川の光る
風を切る サイクリングや 夏来る
手庇で坂道登る立夏かな
被災地の 海も街にも 夏来る
カーテンを替えて風来る立夏かな
ひたむきな 球児の瞳 夏に入る
柔らかに剃刀走り夏来る
神職の 清めたる庭 夏に入る
新艇を漕ぐたびに夏立ちにけり
ネクタイをすこしゆるめに立夏かな
夏立つや水のベニスの本を買う
風はらむ曇の帆船立夏かな
箱根路やペンキ塗り立て夏に入る
夏来たる弾痕古ぶ寛永寺
富士を見て富士に見られて夏来る
銅鐸の流水紋様夏に入る
ライオンのあくびたびたび夏に入る
ジーンズを叩きて干すや夏来る
夏に入り原発すべて停止せり
貯木場の年輪匂ふ立夏かな
口ずさむ小学唱歌夏は来ぬ
山水の白くかがやく立夏かな
駅頭にビラ配る人夏来る
幹濡らす立夏の雨となりにけり
濃さをます樹々のみどりや街立夏
光体の少年少女夏来る
鱶鰭を干す気仙沼夏来たる
夏立つと緑を競ふ木曽の木々
夏に入り街路樹の影濃くなりぬ
白樺のいよよ真白く夏に入る
背の君をテラス席にて待つ立夏
恐竜の化石発見夏は来ぬ
インターハイ予選突破や夏来る
神々が跳箱を待つ立夏かな
気がつけば腕まくりしてゐる立夏
帆にしがみついて立夏であると言え
スカートの丈の延びゆく立夏かな
ばしばしと蛇口怒って夏来る
夏立つや井戸に伏せ置く金盥
夏来る次の元号提案す
出迎えの阿吽目を剥く立夏かな
宇宙船に伸ばす両手や夏来る
干物に白地の目立つ立夏かな
夏に入る海にまつわる展示室
吟行に水辺恋しき立夏かな
草木しげ 立夏の仲間が 勢ぞろい
連山の突然近づく今朝の夏
夏来る船見に行く日しるしつけ
渓流の白泡弾け夏に入る
夏に入る窓開け放つ浪人生
老眼鏡新しく替へ夏に入る
夏立つや明日は遠出の予定とか
砂防林深呼吸してをる立夏かな
格子戸の多き町並み立夏の灯
夏来る五臓六腑が深呼吸
花少し持ちて母訪う立夏かな
恐ろしきほどの乳房や夏来たる
夏来る若きナースの脚線美
相輪の大鎌光る立夏かな
マネキンも身を軽くする立夏かな
夏立つや筑波にかかる浮浪雲
茶摘み歌今は聞こへぬ立夏かな
眼帯の白鮮やかに夏来る
石畳み素足にふれる立夏かな
サイドカー付けしハーレー夏来る
蒼天の立夏へ岩踏みしめる
巻貝のピアスの揺れて夏来る
白球と歓声はるか立夏へと
夏来る銀座オープンカフェテラス
褓とり尻の青さの立夏かな
透きとほるまで窓みがき立夏かな
ざわざわと風に黍鳴る立夏かな
ブラウスの胸乳(むなぢ)透け見え夏来る
湯上りの足跡つづく立夏かな
ゆらゆらとそよぐ街路樹夏に入る
夏来る空隠すほど楠大樹
あおあおと海の果てまで夏来る
仰ぎ見るすべてまぶしき立夏かな
豆腐屋の水の澄みいる立夏かな
炊立ての朝めし三倍立夏なり
姉様の襟足白き立夏かな
夏来る子は道草の味覚へ
街の音絶えて立夏の銀座裏
忘れ潮ひかり蠢く今朝の夏
花時計午後の陽遊ぶ立夏かな
島を出る裔またひとり夏立ちぬ
夏来る男傘寿の力こぶ
右手削ぐ木偶の汀や夏来る
亀池の亀身じろがず立夏かな
瓦礫浜夏に入る日の座礁船
連れだって立夏の雨に五六人
立夏てふ老婆の思案に聴きをりぬ
夏立ちて窓みな開く保育園
廃村に夏はじまりぬ津波痕
夏立ちて山の駅舎に人の声
菜園の草伸び盛る立夏かな
船が行く水脈のまぶしき今朝の夏
汗ばみて草ひく夫の背中かな
ひと雨に緑深まる立夏かな
初恋の白いTシャツ立夏かな
公園の整備も終り夏は来ぬ
海苔茶漬け啜る独りの立夏かな
働きも遊びも楽し夏に入る
君子蘭朱に染まりたる立夏かな
夏来る大地躍動近ずきぬ
粽喰い今宵節分明日立夏
夏に入る集ふ札幌大通
甘夏の二箱終へし立夏かな
夏来る過客札幌大通
隧道の闇一点に立夏光
札幌の観光馬車に乗る立夏
立夏とは名のみぞ翳の小路かな
ハイヒール軽やかな音たて立夏
星になりあなたはみている立夏かな
ネクタイの結び目固し立夏なり
風はこぶみどりの匂い立夏かな
目標の見えたる部活立夏かな
ふるさとの風がすぎてく立夏かな
スニーカー 木影に洗う 立夏かな
墓石に陽がうちつける立夏かな
窓と言う 窓開け放ち 夏を入る
逆立ちがうまい子笑う立夏かな
鍬休め 立夏の風の 木影かな
跳び箱が重きを支えて立夏かな
はしゃぎをり 立夏の社に 笛太鼓
色浅く榛名の峰の立夏かな
つば広ろの 帽子行き交う 立夏かな
定刻に校歌流れる立夏かな
長袖の袖をまくりて夏来る
立夏かな海苔せんべいの香しく
市役所の戸籍係や夏来る
初任地の校旗まばゆし立夏かな
口笛に合わせて歌う立夏かな
廃屋の前のバス停立夏なり
隣より砂糖を借りる立夏かな
山の子の海の子となる立夏かな
飯ごうに湯気の溢るる立夏かな
颯爽と染み入る風に青蛙
川底に素手を差し込む立夏かな
感じている立夏の匂ひだいちから
立夏には立夏のメニュー髪束ね
立夏にて影も風さえ近やかなり
立夏から目標ひとつ減らしをり
頬杖の杖折るひかり立夏にて
職場には職場の顔で夏に入る
弾む陽に立夏のこころみやぶる陽
夏来る好きな人にはいじわるして
念流の剣の風や夏来る
夏来るあなたはあなたあっち行って
尾を垂れて野路行く犬の立夏かな
夏来る神秘体験増えにけり
石仏の慈悲の微笑や夏に入る
通り雨 空七色に 夏立ちぬ
半袖を着てみたくなる立夏かな
自販機の あたたかい消え 夏来る
暖かき立夏の窓に小鳥くる
風抜ける 広間で昼寝 立夏かな
夏来ても 鮎釣りできぬ 水さわる
せせらぎも風もまぶしき今朝の夏
潮干狩り 解禁ならず 貝肥える
杉の秀のとどく青空夏に入る
独り居の 仮設に響く 雷雨かな
風見鶏南を向いてゐる立夏
立夏なり戦の話聞く旅へ
壁白く塗りて立夏の異人館
格安の航空券を購ふ立夏
弓なりに伸びる立夏の水平線
寅さんの笑顔の如き立夏かな
山の名は槍や剱や夏に入る
夏来るスカイツリーの高さより
花活けて床の間飾る立夏かな
高らかに立夏の缶を蹴りにけり
床の間の掛軸替へて夏に入る
野菜の値大幅に下げ夏に入る
夏立つや賑はひの増す河童橋
稚魚増えて 水槽狭し 立夏かな
甲斐駒の雲寄せつけぬ立夏かな
波音を波音洗ふ立夏かな
別荘の雨戸開けるや夏に入る
海蒼く山また青き立夏かな
黒鍵を多めに叩く立夏かな
欝の友土手で寝そべる立夏かな
シャンソンは親しみ易し立夏かな
立夏かな立ち食いそばの出汁熱し
竿竹を売る声のして夏来る
ミニスカの君とボートの立夏かな
黒髪をポニーテールに夏来る
両国へ青空続く立夏かな
美容師のはさみの軽き立夏かな
立夏かな深川あたり陽は甘し
卆寿まで あと一息の 立夏かな
立夏かな君くださいと君の里
立夏にも 倒木に咲く 二輪草
南から川面を上る雲立夏
風を飲み 暴れ真鯉の 立夏かな
クール系目薬嬉し立夏かな
床屋にて髪を刈り上げ夏来たる
マネキンのクールビス着る立夏かな
物言わぬ物憂いばかりの立夏かな
二の腕へ袖捲くりたる立夏かな
夏立ちぬ旅の衣を整える
砂浜を裸足で駆ける立夏かな
夏に入る開いた頁に虫降りぬ
若者のネクタイ据わる立夏かな
禅寺で眠気こらえる立夏かな
退院日 歩みたじろぐ 立夏かな
アルバムをめくり涙す立夏かな
ありがたき 未病側妻 立夏かな
清浄と並ぶ立夏の太柱
軍港に 夏のきらめき 父祖偲ぶ
夏立つや日をはね返す屋根瓦
珍しや 妻が鼻歌 夏は来ぬ
歩数計つけて吟行夏来る
夏立つや ただなすがまま あるがまま
中間テスト済み少年に夏来る
躍動の立夏の叫びサッカー部
隠居して精出す遊び夏来る
健やかな声校庭に立夏晴れ
雲一つなき青空や夏来る
スカイツリー立夏の空を近くする
女子アナが笑顔で告げる立夏かな
立夏晴れ布の魚が空泳ぐ
緑濃くきのうより濃く立夏来る
アドバルーン立夏の空を使い切る
立夏いつ天眼鏡で暦見る
思い切り立夏と遊ぶ園児たち
見わたせば俺ひとりの立夏かな
緑濃く立夏の庭の狭くなる
ひとのこころに棲みつく立夏のころ
神木も葉陰増やして夏に入る
口元に仏の微笑夏来る
夏立ちぬ小屋より農具放り出し
昨日とは違う顔して夏来る
ひねもすを牛の反芻夏来る
神さまは時に気紛れ夏来る
どの店も立夏の構へ京の町
天真にして爛漫の夏来る
なまものの俎板洗ふ立夏かな
いつだつて無防備のまま夏来る
水の音戻りて夏の立ちし村
誰もみな輝く顔の立夏かな
立夏には吾が子も慣れし新教師
木道に肩の触れ合ふ立夏かな
立夏なる森深くして巫女の笑み
海騒ぐ海苔まき囲む立夏かな
立夏には絵の具の海と空と人
立夏たつおにぎりひとつハイキング