俳句庵

12月『除夜の鐘』全応募作品

(敬称略)

めつむりて亡き人思ふ除夜の鐘
消灯のまだ鳴っている除夜の鐘
除夜の鐘一打一打にあるしじま
除夜の鐘鳴り出してより眠りけり
除夜の鐘湿った風の行方かな
除夜の鐘共に衝きたる昔あり
今日明日と君進むべき除夜の鐘
あの時と未練残れる除夜の鐘
百八つ数へ終へたり除夜の鐘
石段は三十三段除夜の鐘
除夜の鐘未来をしかと見据える目
除夜の鐘希望の明日を向ひてをり
街騒の途切ることなく除夜の鐘
除夜の鐘明日の朝刊重たかり
除夜の鐘寝袋で聴くテント村
ふいうちのキスに拉致さる除夜の鐘
手つかずの課題のこして除夜の鐘
娘は母になりて産声除夜の鐘
仕舞湯に首まで浸かり除夜の鐘
離れ住む子らを思いつ除夜の鐘
平凡な暮しが大事除夜の鐘
撞きし掌を静かに合はす除夜の鐘
夜更かしがうれしや孫の除夜の鐘
松明の火の粉は天へ除夜の鐘
過疎の村一人三つ打つ除夜の鐘
足袋新た下駄も新たに除夜の鐘
除夜の鐘芝浜おいて談志逝く
除夜の空撞きにゆきたし郷の鐘
寺町や大小あれど百やっつ
篝火の明かりに浮かぶ除夜の鐘
桃割れを見せびらかして除夜の鐘
除夜の鐘いつにか脇に子の寝息
寛永寺抜けて行こうか除夜の鐘
思ふこと東北のこと除夜の鐘
駒形の橋の半ばで除夜の鐘
露天湯に鐘を遠音の除夜の宿
ほら鳴るぞ酒の支度だ除夜の鐘
湯煙に音色かそけき除夜の鐘
しみじみと七十才の除夜の鐘
遠音にも居住まひ正す除夜の鐘
根津谷中音の絡まる除夜の鐘
独り居の余生を繋ぐ除夜の鐘
畏れつつも海に生きてや除夜の鐘
みちのくへ届け慰霊の除夜の鐘
瓦礫浜意気ひるみなし除夜の鐘
病癒えテレビに除夜の鐘を聴く
被災児のアルバム開く除夜の鐘
ひととせを悔いなく生きて除夜の鐘
津波禍の浜尽くしてや除夜の鐘
露天湯に鐘の音浮かべ年を越す
産声にうながされてや除夜の鐘
喪の家の深きしじまに除夜の鐘
四代の嫁仲良しや除夜の鐘
除夜過ぎて夫婦新たにかしこまり
身を反らし撞く知恩院除夜の鐘
ゆく年の 鐘の響きや 初詣
産土は静かに在す除夜の鐘
あれこれと 悔いを残して 除夜の鐘
除夜の鐘撞き裏返す数え札
背の荷物 ひとまず降ろす 除夜の鐘
深呼吸一つして撞く除夜の鐘
阿寒湖に旅はひとりの除夜の鐘
除夜の鐘並んで撞きし京の寺
除夜の鐘聞きつつ夢に入りにけり
テレビから故郷の除夜の鐘聞けり
又一つ善光寺さんの除夜の鐘
除夜の鐘星のまたたき太古より
聞こえきてしばし目つむる除夜の鐘
除夜の鐘社に人の寄り来る
雪国の盆地うるほす除夜の鐘
窓の灯の暗し明るし除夜の鐘
足摺の俄か遍路に除夜の鐘
雪原に動く影なし除夜の鐘
思い出の¨谺してゆく除夜の鐘
谷一つ越えて響けり除夜の鐘
撞く列に並びて聞くや除夜の鐘
除夜の鐘十も聞かずに床に就く
寺の名の駅に降り立ち除夜の鐘
人の愛かみしめ聞きつ除夜の鐘
この星の祈りに充ちて除夜の鐘
髪結いの茶漬けかき込む除夜の鐘
除夜の鐘電車の中に見るテレビ
日の出を待つ峠に届く除夜の鐘
遠くから夢の中まで除夜の鐘
日の本の絆を紡ぐ除夜の鐘
ご近所の寺まで五分除夜の鐘
足踏みつ順番を待つ除夜の鐘
父母の法名ぽつと除夜の鐘
下駄の音幾つも聞こへ除夜の鐘
心なし点滴遅し除夜の鐘
煩悩を未だ消せずに除夜の鐘
吐く息も白さを増して除夜の鐘
除夜の鐘裏山より降り田に抜ける
除夜の鐘百八っ目に句をなぞる
衝く度に星さんざめく除夜の鐘
厳かに手を合わせたる除夜の鐘
百八の音と静寂除夜の鐘
肌流し次は心の除夜の鐘
除夜の鐘赤子の寝顔見つめをり
除夜の鐘鎮めてくれぬ恋心
百八を越えし煩悩除夜の鐘
除夜の鐘聞きつつ流す去年の垢
七人の孫に囲まれ除夜の鐘
二年湯や途中から鳴る除夜の鐘
江の電に揺られて聴くや除夜の鐘
除夜の鐘聞きば一増す数え年
人類も絶滅危惧種除夜の鐘
除夜の鐘十回聞けば苛立てり
肩車して子に撞かす除夜の鐘
年月のぶれて鐘の音百八つ
鎮魂の想いを込めて除夜の鐘
除夜の鐘五臓六腑にしみわたる
音・テンポ異なり呼応除夜の鐘
研ぎ澄ます五感の闇や除夜の鐘
天からの父母の声かや除夜の鐘
除夜の鐘聞くと言う子の欠伸かな
北辰を震わせ除夜の鐘響く
宗教の別なく鳴らせ除夜の鐘
対岸の島のより響く除夜の鐘
ただ祈る世界平和や除夜の鐘
除夜の鐘果て参道に人溢る
遠近でカウントダウン除夜の鐘
熾きのごと胸に煩悩除夜の鐘
煩悩の数より多し除夜の鐘
除夜の鐘いつとはなしに寝息たて
除夜の鐘百七うちて年が明け
煩悩の波立ち止まる除夜の鐘
境内に未来を招く除夜の鐘
除夜の鐘連れて流るる隅田川
しみじみと一年思ふ除夜の鐘
過ぎし日の咎多かりし除夜の鐘
日本の音のひとつに除夜の鐘
一年の愚痴は御破算除夜の鐘
人生は百八ラゥンド除夜の鐘
煮物の火落として聞きし除夜の鐘
除夜の鐘余韻に生きる齢かな
締めくくる除夜の鐘で目を閉じる
除夜の鐘聞いて晴れ着に袖通す
やり残し除夜の鐘で忘れいく
除夜の鐘我が煩悩は千と八つ
「おはよう」あす除夜の鐘後「おめでとう」
除夜の鐘ひとふし欠ける持ち時間
おみくじも除夜の鐘後忘れ去る
除夜の鐘鳴るを知らずに高鼾
万象の中へ溶けゆく除夜の鐘
節目なき病院勤務除夜の鐘
それぞれの時の重さや除夜の鐘
除夜の鐘吾に煩悩二百三百
撞く僧も寺も誰も無き除夜の鐘
搗く人の確認点呼除夜の鐘
除夜の鐘涙乾いてまた涙
沖をゆく船の灯りや除夜の鐘
除夜の鐘今年悲しき事ばかり
除夜の鐘今何回目かは知りません
ふるさとの除夜の鐘聞くただ一人
撞くたびに闇新しき除夜の鐘
しみじみと聞かずに眠る除夜の鐘
除夜の鐘開きしままの耳の穴
除夜の鐘数えて眠し父の膝
参道に砂利道続く除夜の鐘
歳時記の句を読みをれば除夜の鐘
銭湯の灯りの消えて除夜の鐘
喜怒哀楽納めて撞くや除夜の鐘
テレビ付け背筋伸ばして除夜の鐘
除夜の鐘泊船汽笛と響き合ふ
厳かに澄みきりし時除夜の鐘
撞しあと合掌一礼除夜の鐘
千年の災悼みけり除夜の鐘
真つ白な闇に響くや除夜の鐘
除夜の鐘風に出でたり隱れたり
次は撞く順とメールや除夜の鐘
生きてゐる證しと除夜の鐘を打つ
皿洗ふ妻の背中や除夜の鐘
一本の道一列に除夜の鐘
響き合ふ二つ三つや除夜の鐘
真っ新なノート繰る手に除夜の鐘
働かずして幾年ぞ除夜の鐘
八方の闇震わせて除夜の鐘
卓袱台に豪州マンゴー除夜の鐘
ごしごしと吾を禊ぐや除夜の鐘
百八も取り祓へずに除夜の鐘
除夜の鐘強引に過去打ち砕く
混雑の中に静寂除夜の鐘
除夜の鐘命のわたる山の闇
除夜の鐘宇宙もそこに含まれり
除夜の鐘聴きつつ終える仕事あり
来世も逢ひたき人と除夜の鐘
煩悩のなき若さ持ち除夜の鐘
除夜の鐘この世に生きる証なり
浄財を全戸出したる除夜の鐘
除夜の鐘その一秒が愛おしく
除夜の鐘村の血脈繋ぐごと
押し寿司の重しととのひ除夜の鐘
除夜の鐘この年追うて鳴り聞こゆ
湯煙に音色かそけし除夜の鐘
梵鐘の砕けむばかり除夜の鐘
露天湯に鐘を遠音の除夜の鐘
百八っ数へ途切れし除夜の鐘
思ふこと東北のこと除夜の鐘
仰向きて撞木(しゅもく)打ち当つ除夜の鐘
ゆく年はどうにもならぬ除夜の鐘
遠き寺近き寺より除夜の鐘
除夜の鐘星なき空を流れけり
未来へと歩み始めや除夜の鐘
読みさしの書を伏せて聞く除夜の鐘