俳句庵

9月『十五夜』全応募作品

(敬称略)

十五夜の句会あるらし猫の伸び
まさをなる十五夜しんと深まりぬ
受験生 窓辺で誓う 十五夜かな
十五夜のまるきに雲のすじひとつ
十五夜の少女は蝶になりにけり
十五夜の大きくなりて望遠鏡
十五夜にすすき農夫のやふに垂れ
十五夜の庭風通り抜けしかな
十五夜の明かりを針に通しけり
十五夜や我が家二階に物干場
十五夜を額にブルース聴いており
十五夜に手を合はす父齢百
十五夜に団子丸める母娘
十五夜やため池の影弁天堂
十五夜にページをめくる風の音
月面のごと十五夜の飛騨盆地
十五夜に十二単の雲かかる
十五夜の泣く子なだめる一茶かな
十五夜の光を毀す屋形船
十五夜の月に土偶の眼かな
十五夜に恋がすんなり成就する
十五夜の供えの芋をつまみ食う
十五夜と混浴したる露天風呂
十五夜の月に昇りし地球かな
十五夜に城のしゃちほこ寝そびれる
十五夜の月に狼男かな
十五夜の裏に探査機夢を置く
十五夜のベランダに立つ夫婦かな
十五夜の毬ころころと家出する
十五夜の日には父いて母のいて
十五夜も枕は二つにはならず
縁側で猫と十五夜わかち合う
賑やかになる十五夜の防波堤
河に出て十五夜姿ととのへり
すぐに見つかる十五夜のかくれんぼ
十五夜の村眠らせて満ちにけり
十五夜も一方通行のメール
十五夜の一村一社みそなはす
十五夜に生まれる恋の脆きかな
無人駅出て十五夜の人となる
名月を 誘ひてけふも 終電車
満月や六方踏んで日本海
十五夜にぽっかり浮かぶ過疎の村
満月は海を泳いで昇りけり
可惜夜(あたらよ)やしづこころなり望の月
満月や新人歌手は旅にあり
一つ駅歩く家路や今日の月
十五夜の恍惚とあり九段坂
十五夜に眠気奪はれ刻の過ぎ
十五夜に竹取絵巻ぜひ読まん
庭の妻{出て」と呼びをる月今宵
十五夜にスローなジャズをひとり聴く
遠回りすれどよしとす望の月
杉の秀の尖りあきらか今日の月
一五夜や八幡宮の空寂し
満月が迎えにでたり旅かばん
一五夜や駅舎の明り煌煌と
十五夜に望郷ありしうさぎの目
一五夜や一五の恋の始まりぬ
地球儀の片側照らす満の月
一五夜や少年独り素振りする
抱き上げし子を十五夜に攫われる
一五夜や仁王弛める腹の筋
満月の海に光の帯を織る
一五夜や丸齧りするロブスター
ビルの間にぬっと生まるる大満月
月満ちて銀河鉄道発車せよ
十五夜は手鏡のごと宙を貫く
十五夜を迎へる闇の整へり
掬う手に崩れて十五夜天にあり
十五夜の名残の闇の美しき
十五夜を掬いし水の旨さかな
万物の影美しき望の夜
雲に触れ雲に離れて月今宵
山河みな音の鎮まる良夜かな
雲なくば暗夜に丸き常の月
十五夜の月連れ帰る夜道かな
十五夜や窓みな灯し財務省
十五夜の 神秘な光 影踊り
十五夜や屋根に石置く浜の小屋
十五夜の亀石ついに動き出す
十五夜やするりと抜けし躾糸
十五夜の言葉少なき老夫婦
十五夜下駄からころと神楽坂
十五夜を帰るバイトに疲れ果て
点滴をつれて十五夜医の廊下
十五夜の祝杯に月揺れいたり
十五夜や素振り黙々球児たち
十五夜のマンションの窓開くもあり
十五夜やアカガ二群れて波に入る
十五夜の黒々とある東山
村役者十五夜の下着替えけり
名月を得て名園となる狭庭
十五夜や白樺白き白きこと
名月に見とれゐてまた生返事
鬱の娘の十五夜じっと見つめをり
かぐや姫気取り女の児月今宵
十五夜や父の頬骨際立ちて
それぞれに名月映す棚田かな
十五夜やあんどんを手に錦帯橋
一五夜や隠れ銀杏の戦ぎなし
十五夜の月は静かに露天風呂
一五夜や地にも駅舎の灯りあり
十五夜や母の背中に眠りをり
一五夜や一五の恋の始まりぬ
十五夜やスカイツリーの新名所
一五夜や少年独り素振りする
十五夜の後ろに回る影法師
一五夜や仁王弛める腹の筋
十五夜に足を並べて足湯かな
一五夜や丸齧りする太陽餅
十五夜や愛をはぐくむ婚約者
京の空ほれぼれ眺む月今宵
十五夜に芋焼酎を供えけり
酒蔵の甍波打つ今日の月
十五夜や入り江に漁の船出あり
十五夜の鍵盤に光はしらせり
十五夜と知って夜釣りを止めにする
十五夜や流人の島を遠望す
十五夜やサッカーボール濡れ縁に
十五夜の月掬ひけり心字池
高層の肩を名月離れけり
十五夜や気分も丸くなりにけり
十五夜を手酌で愛でる男ゐて
十五夜やアポロは既に過去の事
満月と対話の弾む風見鶏
十五夜に向かって放つホームラン
十五夜のラーゲリの窓鉄格子
子へつなぐ十五夜を待つ心かな
影法師おまえが頼り望の夜
十五夜や 月より団子 そんな路地
名月に呟く男のひとり言
十五夜や 静かの海も また静か
影踏みに興ずる子らに今日の月
十五夜や 父の位牌と 縁座る
十五夜の電気パネルの異常音
山と積む 月見団子や 父母は無き
十五夜に照らし返してもらひけり
十五夜や ウサギはあそこ 指をさす
聴く耳を持たぬ相手や今日の月
十五夜や 土佐脱藩の 道照らす
十五夜の妻より長き我の影
十五夜の月を残して君の名は
十五夜や距離を定めて位置決める
十五夜の月変りなくかぶとがに
昼の月右舷左舷の談義かな
十五夜の静けさ揺らす穂先かな