俳句庵

6月『夏暖簾』全応募作品

(敬称略)

下町の風に馴染んだ夏暖簾
光指す麻目鮮やか夏暖簾
若者の透明になる夏暖簾
路地の風 つれてくぐるや 夏暖簾
寅さんのひょいと顔出す夏暖簾
山海の珍味のにほふ夏暖簾
夏暖簾空気のちがう裏表
小気味良き包丁捌き夏暖簾
坊ちゃんが下駄で駆け込む夏暖簾
蒲焼の匂つて来たる夏暖簾
呉服屋の風しなやかな夏暖簾
夏暖簾透けて町家の通し土間
朗々と江戸紫や夏暖簾
夏暖簾くぐりて長き石畳
白樺の葉はうすみどり夏暖簾
坪庭の透けて朱色の夏暖簾
湯上りのほとぼり払ふ夏暖簾
門前の手打ちの蕎麦屋夏暖簾
亡き妻の衣擦と似て夏暖簾
夏のれん涼の一字が風に添う
周首相偲ぶホールの夏暖簾
夏のれん掛けたる日より新メニュー
黒光る土間玄関の夏暖簾
夏暖簾磨きぬかれた京格子
夏暖簾お客呼ぶよに揺れてをり
夏暖簾板場よりくる酢の匂い
夏暖簾白地に紺を染め抜きて
ゆうれいの出番待ちする夏のれん
佃島江戸の味ある夏暖簾
銀座には銀座のセンス夏暖簾
創業者は近江の出とや夏暖簾
夏暖簾脛の白さを覗かせて
向かひ会ふ本家と元祖夏のれん
夏暖簾たまとぽちとのご挨拶
揉み手して主出で来ぬ夏のれん
下町の老舗のそば屋夏のれん
夏のれん老舗を仕切る若女将
江戸前のそばの香りや夏のれん
婿取りの話まとまり夏のれん
夏のれん白地に青き河童の絵
製法を一切変へず夏のれん
雨宿り鳩居堂は夏のれん
夏暖簾替えて良き風待ちにけり
湯波半は東山向く夏のれん
大店の歴史を守り夏暖簾
夏のれん白無垢乗せた人力車
夏暖簾軒先深き老舗かな
銀座には女優の声する夏のれん
歌舞伎座の千秋楽の夏暖簾
空也もなか売り切れ候夏のれん
鰻屋のうの字の揺れる夏暖簾
夏のれん路地に舞妓の下駄の音
夏暖簾潜り役者の楽屋入り
夕風に吹かれてくぐる夏のれん
指切りの小指あらはや夏暖簾
夏のれん老舗の時の過ぎゆけり
胃カメラを終えてくぐるは夏暖簾
京和菓子さそわれくぐる夏暖簾
夏暖簾米寿の母の浅眠り
夏のれん分ける芸妓の白き指
お見合いやこころを散らす夏暖簾
老舗には老舗の決まり夏暖簾
夏暖簾くぐればそこに穴子飯
夏暖簾奥に聞こゆる京ことば
腰かけて素足ぶらぶら夏暖簾
夏暖簾街の虚飾を遮断せる
創業は宝暦といふ夏暖簾
デパ地下の夏暖簾街流しけり
ぼんやりと月ある路地の夏暖簾
百店に百店の風夏暖簾
一人入りひとり出てくる夏暖簾
夏暖簾かすかに漂う醤油の香
夏暖簾一寸お寄りと翻り
露天湯や空より青き夏暖簾
夏暖簾煙を添えて誘いけり
夏暖簾潜る舞妓や京の風
夏暖簾二酸化炭素抑えけり
茶の入荷手招き戦ぐ夏暖簾
夏暖簾すでに暮れてる店の中
半眼光下す大仏夏暖簾
麻暖簾店の気遣い透けており
濃き藍の不意に波打つ夏暖簾
水玉も魚も青に夏暖簾
風なりにはためく三文字の夏暖簾
軒連ね大内宿の夏暖簾
夕暮れに抜き文字残る夏暖簾
染め上げて油麩店の夏暖簾
割烹着の似合ふ女将や夏暖簾
銭湯の風と分け入る夏暖簾
家ぬちの透けし老舗の夏暖簾
和菓子屋の紺匂い立つ夏暖簾
白抜きの丸に三越夏暖簾
花菱の老舗蕎麦屋の夏暖簾
百年の老舗染め抜き夏暖簾
夏暖簾木曽も奥なる蕎麦所
鶴と亀左右に描き夏暖簾
夏暖簾掛けて病間の閉めらるる
右下に屋号の有りし夏暖簾
夏暖簾掛けるや否や風通る
よりわけてくぐるが楽し夏暖簾
消エネと取り出し懸くる夏暖簾
老舗なる「あ」の字「の」の字の夏のれん
懐かしや町屋に見付けし夏暖簾
ひと声がつい長ばなし夏暖簾
染め抜かる老舗の名揺る夏暖簾
麻暖簾さっと払ひて寄席帰り
染め好きの亡母(はは)の遺せし夏暖簾
雨来るとラジオの告げる夏暖簾
赤提灯脇にひんらり夏暖簾
柄杓持つかひなの白さ麻暖簾
奥座敷続く廊下に夏暖簾
夏暖簾奥より凛と京ことば
風通しよきがとりえや夏暖簾
夏暖簾向かひに旅の衣解く
夏のれん褪せし歳月佃煮屋
とんかつやのいろは文字染む麻暖簾
雨に褪せ日褪せ老舗夏暖簾
下賀茂の菓子の老舗の麻暖簾
夏のれん陰に仲居の割烹着
川端道喜「御ちまき司」の夏暖簾
夏のれん麻の手織りの白さかな
夏暖簾大福帳と算盤と
とり替へし掛軸とり替へし夏暖簾
白のれん何処かやさしい風が吹き
閉じた店夏暖簾のみ残りをり
ケータイに彼の絵文字や夏暖簾
うなぎ屋のうの字の長き夏暖簾
夏暖簾祖母に手紙を書いてをり
夏暖簾今は聞こへぬ流し唄
夏暖簾くぐる真珠の薬指
夏暖簾くぐれば笑顔なじみの娘
襟足に午後の日射しや白のれん
夏暖簾音無くくぐる在りし母
ゴーギャンの女が揺れる夏暖簾
色白き娘が仄か夏暖簾
水菓子の甘さ老舗の夏暖簾
夏暖簾仏にゆるき風送る
繁盛の老舗の歴史夏暖簾
酔いさます月は朧や夏暖簾
水羊羹老舗の味や夏暖簾
夏暖簾上げれば海は蒼きまま
店頭の水羊羹や夏暖簾