俳句庵

2月『針供養(はりくよう)』全応募作品

(敬称略)

築山の青む境内針供養
針持たぬ娘もまじり針供養
確りと供養の針を摑みけり
胸の傷豆腐に刺しぬ針供養
針供養波紋拡がる池の面
ブティックの夢をいだきて針供養
結び上げの曽ての御河童針供養
裁縫の技受け継がず針供養
糸通しは機械たのみの針供養
車いすの母のお供で針供養
針供養愚直な指へサロンパス
お針子の腕も錆びたり針供養
戦争の記憶も薄れ針供養
針供養使はねば針みな錆びて
針供養祖母から母へそして娘へ
釦つけるのみの針箱針供養
頑なに守る慣わし針供養
針供養母嘆かせし不器用(ぶきっちょう)
今の子のほとんど知らぬ針供養
待針の色美しき針供養
家庭科のかすかな記憶針供養
その多くミシンに変わり針供養
針供養母の教えを守る姉
お針子のほっと安堵の針供養
針などを持たぬ男の針供養
針供養豆腐の白さ際立ちぬ
針箱に折れし形見の針供養
着物着る人も少なし針供養
家計簿を支えし母の針供養
ちらほらと男も混じる針供養
お豆腐の背なは厄日の針供養
針供養裁縫箱は何所だっけ
針供養寝そべる縫い子の青畳
老眼の妻を見かけぬ針供養
針供養納めて針子の甘味処
新案の糸穴目立つ針供養
祈願縫う千の手波や針供養
使わねば針も損ぜぬ針供養
やれ安堵A型予防の針供養
コーラスに夢中の妻や針供養
針供養晴れ着行きかう末社かな
標準の体型恨む針供養
繕ふのことばも死語や針供養
鳩スズメ豆の境内針供養
色白は母の家系や針祭る
海老蔵の衣裳係や針供養
繕ふて兄の御下がり針供養
夕五時の鐘の音ひく針供養
糸通すだけの手伝ひ針供養
帰りには汁粉をねだる針供養
母を継ぐ裁縫上手針供養
めっきりと仕立てもせずに針供養
潮風にふくらむ袂針供養
描きかけのウェディング・ドレス針供養
針供養プリンに刺して甘き夢
針に糸通らぬ老母も針供養
針の山閻魔主催の針供養
住職の華やいでいる針供養
絹の道ローマに続く針供養
針供養千人針知る老婆たち
家庭科の女教師や針供養
裁縫を西方と聞く針供養
針供養裁縫箱の針さびし
恋糸の赤き結び目針供養
初恋の娘の名呼ぶ針供養
人波のうらぢを縫いて針供養
待ち針は星の形や針供養
犬猫を癒せし駐車針供養
針供養娘盛りは無為に過ぎ
新しき指抜き堅し針供養
針供養母の残せし老眼鏡
やわらかく香煙ながる針供養
針供養裁縫箱のうす埃
針供養針も豆腐ももめんなり
不器用を謝る母の針供養
針供養為す母も亡し寄木箱
針供養キルトに夢を紡ぎけり
手作りの豆腐に刺しし針供養
浅草に駒下駄鳴らし針供養
天国で亡母刺ししか針供養
針祭る浅き雨降る明石町
針供養為す人もなし裁縫箱
針塚の香煙細き針供養
老妻がわずかに伝えし針供養
針祭る隅にをとこの二、三人
老妻が眼細めたる針供養
甘味処に寄りて帰りぬ針供養
針祭る妻の手擦れの刺繍枠
傘ひらくまでもなき雨針祭る
血液の検査の列や針供養
和裁好き亡母(はは)の残せし針祭る
待ち侘びし銃後の母や納め針
針数本供養せぬまま母は逝き
針納め亡母の手縫ひの剣道着
その中に折れも曲がりも針供養
畳屋の太き一本針供養
蒟蒻に長短混ざりて針納む
針供養頭の脂通しよし
去年(こぞ)洩れし針の一本祭りけり
針納め豆腐蒟蒻おでんだね
錆落し浄めし数本針祭る
針山の針賑わしや針供養
朝の陽をきりりと受けて針供養
針供養身丈身幅を鯨尺
世迷ひごとすべて受け入れ針供養
お針子の妻に会ひしも針供養
針供養良妻賢母とは言いがたし
工房のミシンきよまり針供養
待ち針の乱数表や針供養
釣針もレコード針も針供養
針祭る母懐かしき座り胼胝
特大の木綿豆腐に針供養
針供養母の遺せし鯨尺
豆腐にも命ありけり針供養
手間暇を惜しまぬ母や針供養
振袖にたすきがけして針供養
針供養母の絎台捨てられず
百才の目で糸通す針供養
山の日のはやかげり出す針供養
針供養千人針に母忍ぶ
三世代使い継ぎたる針供養
針供養針穴写真逆世間
中指に包帯の子も針供養
針供養革製品の針太し
指貫を添へて豆腐に針供養
畳屋の肘胼胝固し針供養
指なりに撓みし針の供養かな
針供養母は生涯ミシン踏む
針供養思ひ直して我も行く
針供養 いにしえの針 いまいずこ
七回忌亡母の待針供養せり
打ち勝つぞ 針の思いで 快復へ
待針のけなげに光る供養かな
結納の日の近づけり針供養
ひととせをうづくいたみや針供養
針祀る雑巾はまだ未完成
我を捨てし空の深さや針供養
針供養終へ白い歯のこぼれけり
絹豆腐の角をこわさず針供養
初めての運針の目や針供養/td>
針箱の母の名うすれ針供養
母の背は悲しきものぞ針供養
糸切り歯健在なりし針供養
針供養後の豆腐が気にかかり