俳句庵

11月『大根』全応募作品

(敬称略)

大根に味しみている鍋帽子
大根煮る強火弱火や母の味
炊き出しや祖父の定番鰤大根
通人はまず大根を食ふおでんかな
妻が抜き子らの手伝ふ大根引き
土つけて大地ノ匂ふ大根かな
じっくりと煮込む大根飴の色
大根の煮られおろされ漬けられし
一村の軒端を占めて干し大根
大根を赤児のやうに胸に抱き
海風に染め上げらるる干し大根
さつきから大根煮る音眠気さし
半島は大根畑に覆わるる
大根煮る音不連続ふすま越し
大根の果て無き畝や地平線
大根をポンポン投げる漬物屋
大根を食ふ青春の懐かしき
粥の具に大根好む老い二人
大根を煮て息災を祈るかな
大根を掲げて踊る豊年祭
大釜で大根煮らる冬の京
この一品夫や自慢の鰤大根
大根のあめ色の湯気帰省かな
漬樽の大根さみし老いの家
大根を嫌いといった人がいた
懸垂の意欲は失せし干し大根
大根を火に掛けジャズを聴いており
大根の首も刎ねけりレジ係
主婦の目で選ぶ大根やハイヒール
無造作に大根の頸きる八百屋
半分の大根で足りる核家族
下ばかり残る大根の切り売り場
大根の真白き肌をかかへ買ふ
飴色の鰤大根や舌に融け
土のままおすそわけする大根かな
切干大根蓄え玉手箱
道の駅葉付き大根の良く売れて
ふろふきの色も香りも味も良し
潮風のさわぐ三崎の大根畑
大根を脚に見たてる白き艶
色白の大根の肩の丸さかな
大根の花に初恋色の浮く
大根に黄昏しみてハーモニカ
大根を干してラインダンスのやう
大根や白く長きメビウスの輪
カイワレカイワレダイコン八千本
君言えり大根は体に良しと
網棚に匂ふ故郷の大根漬け
大根や軒と吊るせしあの夕陽
大根引く岬や鳶の輪いくつ
大根を刻めし母の音重く
葉大根ごろごろ無人販売所
大根や葉の悲しみを貧者知る
丸大根四つに切って大銀杏
大根を洗い上げたる眩しさよ
大根葉細かく切ってお漬物
大根の位置の定まる厨かな
繊細に大根のつま華添える
大根や日本の母のここにあり
よかおごじょ薩摩大根自慢品
ヤンママの先ず大根を買いにけり
ふろふきを食べて心の傷癒す
これほどに捨てるとこなき大根かな
孫が来て大根よいしょ引っこ抜く
一杯の肴に風呂吹あればよい
大根を抜けば尻餅空を指す
抜きん出づ太き方より大根引く
大根のお尻並べて朝の市
大根の煮加減箸突き妻の笑み
大根の水を濁して真っ白く
子に孫に継がで捨つるか大根畑
捨てられし大根畑にガソリン高
大根引くしばし腰伸べ穴見遣る
大根畑風とおしゃべりざわざわと
煮大根湯気も芳し夕餉かな
海青し三浦大根抱えをり
いづく家も昔見慣れし干大根
白子の目大根おろし白きこと
大根の花少女らの息のごと
赤土の大根畑でありにけり
風呂吹きのなんと美人な大根よ
間引菜に大根の辛味ありにけり
料亭の味には負けぬ大根煮
黒土を畝高く積む大根畑
帰り道大根抜いて手土産に
ゆっくりと輪切りの大根煮ゆるまで
大根のようにかわいい足の女
地震なくば高原大根買ふ旅に
大根葉炒めてかける白ご飯
味噌汁の具の大根の甘味かな
大根買ふお国訛りの老婆より 
大根干す電車の見ゆる農具小屋
大根干すアンデス颪といふ風に
はふほふと口福ほおばる秋の夜
昨夜の雨溜りし大根抜きし跡
大根の白さを抱きて妻帰る
土匂ふ大根すっぽり抜けし時
洗い大根山と積みたる農の庭
大根干す日語教師として老いぬ
大根の箱山積みに出荷前
老いてより似てきし夫婦大根食ぶ
店頭の尾張大根白競う
畑にもこなべっぴんはんいてはったん
おでん鍋大根好きよという彼と
脇役者主役盛り立て演じはる
大根や舞妓ほどなる肩をだす
世間では色んな足に例えられ
妖艶な肩をのぞかすだいこかな
北風に干され干されて旨味増す
風ふいて吹いて大根売れ尽す
料理にはひと手間入れて角おとす
挨拶の代り大根掲げけり
純白も貴方好みの味となり
大根や精一杯に背伸びする
大根を仇の如くおろしけり