俳句庵

3月『草餅』全応募作品

(敬称略)

草餅や来ぬかも知れぬ人を待つ
口中に広がる春や草の餅
草餅や野の香野の色母の声
草餅や同窓会に孫を連れ
葉脈の絡む草餅焼きにけり
緑色心にしみる草餅か
ふるさとの物産展の草の餅
手作りと書いて草餅売られけり
草餅や地蔵通りの家苞に
割烹着まばゆき女将草の餅
幼らは黄粉まみれの草の餅
草餅に思いで話の花が咲き
草餅の利根の堤のかをりけり
ほうじ茶と緑の口福昼下がり
草餅にいつも大福寄添へる
草よりも色も香も濃き草の餅
草餅の甘さひかえめ母心
草餅の次はもちろん海苔餅よ 
里の昼草餅の輪の広がりて
草餅の次はもちろん海苔餅よ 
草餅の祖母がこさえしさ緑よ
冬月に草餅供え明日祈る
草餅や春の匂いの娘(こ)らが食ぶ
鈴ふたつ鳴らし草餅頂けり
草餅を腰に結びし大原女
素朴さを丸く包んで草の餅
お稲荷と草餅持ちて義母(はは)が来る
先づ仏前草餅好む母なりき
縁側のよもやま話草の餅
故郷を偲ぶ草餅茶請けとす
草餅の一子相伝里の味
五歳児の草餅提げ買うて来る
昼下がりよもぎの香り味わひぬ
故郷の野辺の匂へる蓬餅
春の香のみどり深き草餅かな
帝釈天お参り済ませ草の餅
草餅やひと味先に春霞
草餅に偲ぶ母の香父の膝
草餅の緑を称え香を褒めて
草餅を食べては鍬を忘れけり
母子草ほのかに匂う草の餅
恙無き二人の暮し草の餅
てのひらにほわと草餅あたたかく
川風にはためく旗幟や草の餅
お見事な餡とよもぎのハーモニー
草餅や街並変はる日本橋
幼き日よもぎを摘んで草の餅
鎌倉や門前茶屋の草の餅
ただいまの声に草餅待ってをり
草の餅搗くや夫婦の阿吽かな
縁側で午後の語らひ草の餅
草餅や産声待つ間爺と婆
草餅に遙かな記憶重ねつつ
草餅を食べて兄弟仲直り
草餅を義母の遺影に三回忌
草餅や小さき子の手で丸めらる
縁側で草餅食す日向ぼこ
草餅の少し破れて出来上る
遠き日の思い出包み草の餅
縁日の婆の草餅旨かりき
草餅を供え華やぐ雛の膳
どの店も元祖と掲ぐ草の餅
草餅と桃の枝入れ上京便
草餅を嗅いだ鼻先嗅いでみる
よもぎ摘み草餅搗いて初節句
草餅や拝みながらに薄目開け
草餅の幼心に笑み浮かぶ
デパ地下の装ひ新た草の餅
早春の色香味わふ草の餅
餡飛び出硬き草餅焼かれけり
草餅の甘さにひかれ長話
草餅にすじ残らぬを好しとせむ
早春の色香味わふ草の餅
草餅にすじ残らぬを好しとせむ
辛党も思わず手を出す草の餅
墓前の草餅掠ふ悪童等
父親と草餅食むる日曜日
緋毛氈床机に座して草の餅
草餅を食みて青葉の風に入る
草餅の焦げて厨の芳しく
草餅の濃き緑こそ春の色
懐かしや草餅食べて母思う
草餅の鈍き甘みの店消える
秘め事は誰にでもあり草の餅
草餅を三つほおばる悲しみよ
草餅を食べてやさしい顔となり
草餅と抹茶映えし緑かな
伊豆土産妻へ草餅吾に酒盗
受験子に母差入れる草の餅
草餅や野沢菜なくて何とする
草餅に渋茶またよし午後のお茶
草餅や嫁も姑も二つづつ
草餅の彩の引き立つ白磁皿
草餅の不揃家に残したり
野の香り丸く包める蓬餅
草餅や遊び呆けた子を待って
手づくりの亡母(はは)の偲べる草の餅
レジ脇に置かれ草餅売れにけり
手づくりの亡母(はは)の草餅懐かしむ
草餅を供えて点す仏の灯
茶の子には草餅相合ふ渋茶なる
草餅や大地の芯の色の生る
あれやこれ茶話尽きぬ草の餅
草餅で迎へてくるる友の居る
茶話の間合ひよろしく草餅が
祖母の手の厚き大きく草餅や
茶話のつもる間合ひに草の餅
我が買い妻も買い来し草の餅
茶請けにはけふも草餅この季節
草餅と見紛ふ山の重ねかな
草餅やつもる茶話ちと止めて
草餅や薫る旨味は土地毎に
故郷を語り掛けくる蓬餅
縁側に座布団二つ草の餅
故郷を偲びつ草餅午後のお茶
草餅やまあるく母の生きて来し
草餅や故郷届く宅配便
草餅や在所に鼻のひくい叔母
墨堤を下りて求める草の餅
訳ありな話が一つ草の餅
和菓子屋の風情に惹かれ草の餅
草餅の甘さ忘れず笑みこぼれ
ためらいもせずに二つめ蓬餅
三方に草餅飾る雛の夜
郷愁の詰まってをりし草の餅
孫のほほ草餅交互に撫で比べ
搗き立てを五感で楽しむ蓬餅
故郷は遠きにありて草の餅
新しき懐紙にかしこみ草の餅
草餅に母の手触りありにけり
限りなく母に会いたし草の餅
節くれの手づかみもよし蓬餅
酒豪とは昔の事よ草の餅
滝の音まず草餅を頬ばりし
手伝うて子らの作りし草の餅
南国の便りぷんぷん草の餅
手づくりの形揃はぬ蓬餅
草餅を提げて本復告げにけり
鄙びたる野辺の匂ひや草の餅
草餅や二個目は孫の食べ残し
手づくりの母の掌温し草の餅
草餅の迷ひ迷ひて乙女かな
草餅の取持つ母の縁かな
草餅に老舗気質が顔を出し
床し気な暖簾を分けて草の餅
鄙びたる老舗の暖簾草の餅
古伊万里の皿をまず誉め草の餅
祖母ちゃんの自慢の草餅塩の味
草餅のふぞろいもまた楽しいな
留守番のメモの重石に草の餅
一口の甘さなつかし草餅か
頬張って手にもつかんで草の餅
黒文字を添えて出される草の餅
草餅や神妙になるガキ大将
手土産のついでに一つ草の餅
草餅や草摘む母の背の丸さ
旅終えてまずは草餅寅次郎
草餅やかおりと景色噛みしめる
待春の気持ちを買って草の餅