俳句庵

9月『生姜』全応募作品

(敬称略)

金時の武者震ひなり生姜噛む
鯖を煮る味噌に紛れて生姜の香
酔ひざめの髭に残りし生姜かな
生涯をひとりに尽くす紅生姜
長考の谷中生姜を齧りけり
手に染まる生姜の色こそ母の色
葉生姜を漬けるコップの甘酢かな
葉生姜の香を放つ厨かな
新生姜少女の細きうなじかな
はじかみは乙女のはにかみ紅薄く
擦られても未だ筋残る生姜食む
駅弁の隅を彩る生姜かな
我に似て厨に古りし生姜かな
たくましき父の指先生姜摺る
結はへられ一蓮託生新生姜
眼裏にいつも母在り生姜摺る
新生姜恥じらふ乙女の頬の色
手をにぎり一巡りする生姜市
新生姜夕餉の仕度早いめに
風邪に臥し母手作りの生姜酒
生麦の香り豊かに奮い立つ
土落とす生姜の瘤と指の節
ひとつまみモズクに生姜香り立つ
稲荷寿司ほのかに紅き生姜かな
高級な材のごとくに生姜擂る
蝉時雨祖母の差し出す生姜糖
草取りで切った小指に生姜沁む
遠き日や学生街の生姜焼
隠し味隠されている生姜かな
生姜摺る厨に満つる香りかな
職退きて夫が下ろす古生姜
生姜汁素早く混ぜて汁粉汁
土付けて葉生姜届く厨口
ステーキも生姜なくては威張られず
地の恵み逃さじ生姜使ひ切る
食欲を誘ふ香りの生姜かな
生姜焼学食ランチの頃の事
包丁の当て場に戸惑ふ生姜かな
ゾリゲンてふ髭剃りありし新生姜
薬味とておろし生姜に目鼻崩ゆ
愛らしき稚児睦み合ふ生姜かな
辛党も鼻はぴくぴく生姜かな
葉生姜の京懐石の甘酢かな
新生姜味噌添へられて縁側へ
食細り葉つき生姜の梅酢漬
新生姜昔漬け方教えた娘
葉生姜の余りて埋めし庭の隅
新しょうが食欲湧けリ甘酢漬け
はじかみやコリコリコリと箸やすむ
新生姜いつしか慣れし独りの餉
故郷の土の匂いや生姜着く
片意地の後の失意や紅生姜
葉生姜の香りを売って朝市女
生姜する昼餉を母とふたりきり
新生姜握り締めたる赤子の手
新生姜弾ける辛さありにけり
生姜摺る母の背中の小さくて
新生姜刺身の脇につつましく
焼きたての魚におろす新生姜
新生姜黒子の如き過去なりし
葉生姜の畑に雨の小籠かな
三世代揃う食卓新生姜
脇役に徹して辛き生姜かな
荷解きの香りのあふれ新生姜
生姜酒夜風の中に歳を見る
人型の生姜や卓を賑わしし
母在らば生姜を漬ける日和かな
薑や磨られて味の丸くなる
スパゲティーに一味足して新生姜
古生姜厨の端に捨て置かれ
生姜の香麺を引立て麺に添い
曖昧な彼を刺してよ針生姜
葉生姜の茎の紅きや手塩皿
新生姜四畳半から見る公園
冷奴おろし生姜に夏惜しむ
新生姜手打の技は父ゆずり
土つけて生姜売らるる輪島かな
晴れの日に赤いべべ着て生姜かな
葱生姜海苔取り合わす薬味かな
葉生姜を遠路の客が好みけり
洗われて黄身赤心の生姜かな
食卓に生姜醤油は母の味