俳句庵

1月『冬林檎』全応募作品

(敬称略)

冬りんご厚く剥いて科がめられ
真二つに小鳥呼ぶ餌の冬林檎
善光寺津軽りんごに手を合せ
炬燵には蜜柑の山と冬林檎
しばし待て触れねば落ちむ冬りんご
寒晴れの信濃を染めて冬林檎
早生リンゴいつの間にやら冬リンゴ
たくらみを秘めし丸さや冬林檎
今もなお木箱に積めし冬リンゴ
独り居の部屋のはなやぎ冬林檎
ポテサラに一役買はむ冬りんご
帰京の荷真っ先に解く冬林檎
桃よりも扱つかい易すし冬りんご
母剥けば兎となれり冬林檎
冷メンの台座となりぬ冬リンゴ
風邪の子におろして搾る冬林檎
虫眼鏡片手に探がすりんごの句
冬林檎園児が渡る青信号
冬リンゴ吊るして待つわ青い鳥
冬林檎小さき皿は妻のもの
籾殻の衣をまとう冬林檎
実家より少し傷持つ冬林檎
籾の中赤い顔出す冬林檎
籾殻の中から掘り出す冬林檎
東北の友のもてなし冬林檎
冬林檎勤しむ朝の金メダル
陸奥の友は髭面冬林檎
掃除機をかけし夫への冬林檎
木箱よりこぼれる笑みや冬林檎
亡き母の好物なりし冬林檎
冬林檎戦後は遠くなりにけり
熟年の癒しの香り冬林檎
冬林檎火照りし頬に当てにけり
幼児の両手に余る冬林檎
青春を噛みしめている冬林檎
移住者の努力実るや冬林檎
母のやまい心配なり冬リンゴ
皮剥いて長さを競ふ冬林檎
紅顔と言われし昔冬林檎
冬林檎ハチローの詩も遠のけり
今日の愚痴聞く耳持たず冬林檎
傷口に津軽のにほひ冬林檎
青春を昨日のやうに冬林檎
冬林檎母の得意なパイ菓子かな
冬林檎話の弾む地図の旅
産土に留めて六十路冬林檎
生れしまま紅失せぬ冬林檎
籠りゐてひとひ波音冬林檎
冬林檎ドーハの辺り剥きにくし
陽の香り土の恵みや冬林檎
幼子の掌に余りたる冬林檎
籠詰めのはちきれそうな冬林檎
風邪の吾に子の剥きくれし冬林檎
老い足ればこその青春冬林檎
冬林檎罪あるやうに刃を入れる
ふるさとや鼻を近付け冬林檎
雪帽子被って重き冬林檎
冬林檎秘めし陽だまり芯の蜜
冬林檎恋の痛手を思い出し
冬林檎うさぎとなりて卓跳ねる
冬林檎剥いて二人の夜であり
冬林檎行儀良く入る桐の箱
冬林檎二人で居れば温かく
冬林檎ずしりと重し太陽果
林檎一つ渡して冬の片思い
冬林檎皆に分けてと箱届く
お駄賃に貰って走る冬林檎
冬林檎落ちるなと皆声をかけ
故郷の香りを添えて冬林檎
冬林檎綺麗に磨きお供えす
冬林檎細かく切りて食ぶ齢
冬林檎突風吹いてごっつんこ
冬林檎籾殻つけしまま売られ
冬林檎細長く剥き赤い糸
燈の下冬林檎かなあかあかと
手にとればしみじみ丸き冬林檎
かぶりつき頬赤き子や冬林檎
病床に北の便りの冬林檎
荷を解けば香を解き放つ冬林檎
冬林檎食ぶ若き等の歯音かな