俳句庵

11月『焼藷』全応募作品

(敬称略)

寒い日に焼藷買って暖を取る
窓越しに手渡しをする焼芋屋
やきいものつつむあたたかくいやしぬ
焼藷や少年の手の老い易き
焼藷にこだはる父の火の加減
焼芋に温もりもらふ寒さかな
石焼藷割れば黄金の湯気放つ
ビル外の焼芋売りの声を見る
焼藷は美容によろしお嬢さん
焼芋の声染み通る路地の奥
焼藷や昔ながらの引き売り屋
焼き鳥で藷焼酎を自棄に飲み
シスターのそつと焼藷買ひにけり
常連を待って止まりし焼芋屋
焼芋屋寂しき声を売ってをり
焼芋屋軍手の色も焦げにけり
ピアスして焼藷なんぞを買おうとは
見たような石焼いもの紙袋
誠実な男の香り石焼藷
あつあつの焼薯抱ふ小猿かな
焼藷の出前が届く始発駅
焼芋に故郷自慢盛り上がる
焼芋といふ楽しさの落葉焚き
焼藷を三人姉妹戦中派
やきいも屋声が少なくなる時代
焼藷の香り漂ふ更衣室
熱熱の焼藷転び(まろび)膝熱し
焼き藷の心あたたく母譲り
焼藷を包みて英字新聞紙
焼芋屋けふも帰宅の足を止め
焼藷を抱へ懐あたたかし
新聞紙焼藷くるむ衣装なり
焼藷の阿弥陀くじで買いにけり
焼芋を買って母さん甘くなり
売り声の路地練り歩く焼芋屋
陋巷や石焼芋の匂ひあり
焼芋を食べて戦後を偲びをり
焼藷の熱さ昭和に戻しけり
駅の裏リヤカー引いて焼芋屋
落葉焚き芋焼けるのを子は待てず
焼芋が好きと含羞む少女かな
焼きいものぽっくり割れてゆげ立ちぬ
焼芋屋いつもの角で止まりけり
焼芋や順序正しく流しをり
焼藷の煙の匂い売る車
焼藷を包む新聞地震ニュース
焼芋の誘いに負けしダイエット
焼芋を掌に転がして暖をとる
焼藷を買ひに十三階降る
焼藷を核の紙面に包み込む
焼芋屋女房孝行並びをり
やきいもを頬張る娘天下取る
やきいもの灯の揺れる日暮れかな
焼藷の立前遠くなりにけり
焼いもの漂う匂い十三里
夜なべする灯に声かけ焼芋屋
焼芋を買えば隣もお向かいも
焼藷屋自動改札真ん前に
焼藷や息を荒げて食べる声
戦時下を思い出させる焼芋かな
郷愁を買ふ気にさせて焼芋屋
風呂焚きも楽しかりけり芋を焼く
焼芋を半分妻より分けられし
掘って楽し 食べては楽し 焼藷かな
焼芋屋井戸端会議に顔を出し
木枯しや焼芋の声切れ切れに
学ぶ子に焼芋渡し父の去る
焼藷屋いつも来ている公園前
焼芋を食べて天下を論じをり
焼藷を買ひにエレベーター降りる
焼藷を分かちて熱き二人かな